僕は県職員として11年働きましたが、その間に生活保護ケースワーカーも経験しました。
一般事務や行政職として公務員になった人が携わる仕事が色々とある中で、あまり良い印象を持たれていないであろう仕事の一つですね。
しかしながら、実際にはどういう仕事なのかよくわかっていない方が多いように思います。
そこで、実際に生活保護ケースワーカーを経験した僕が、生活保護ケースワーカーの仕事について解説します。
生活保護ケースワーカーとは
やむを得ない事情があって働けないような人に対して、憲法で保障される健康で文化的な最低限度の生活が送れるように、生活費を支給したり生活の指導をしたりするのが生活保護です。
日本国憲法第25条にこのように規定されています。
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。日本国憲法(昭和21年憲法)より(一部抜粋)
そしてこの憲法第25条を受けて生活保護法に次のように規定されています。
(この法律の目的)
第一条 この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
(無差別平等)
第二条 すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができる。
(最低生活)
第三条 この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。
(保護の補足性)
第四条 保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
2 民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3 前二項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない。生活保護法(昭和25年法律第144号)より(一部抜粋)
重要な4つの基本原理だけ引用しました。
上記の基本原理に基づく保護が、各世帯の状況に応じて適切に実施されるために働いているのが生活保護ケースワーカーです。
生活保護のケースワーカーが主役の漫画本が発行され、2018年にはテレビドラマにもなりました。
その影響で以前に比べるとケースワーカーの仕事が世間一般にも知られるようになっています。
どんな人が生活保護ケースワーカーをしているのか
生活保護という制度は福祉事務所を設置している地方自治体が行っています。
市は福祉事務所を設置しているため、市が自ら実施しています。一方で町村は大半が福祉事務所を設定していないので、基本的には都道府県が実施しています。
また、公務員でない方からすると意外かもしれませんが、生活保護専門の職種がないことがほとんどで、行政職や一般事務(福祉職を含む)と呼ばれる所謂“普通の公務員”も当たり前のようにこの仕事をやっています。。
厳密には社会福祉主事と呼ばれる資格が必要となります。この資格は大学のときに特定の科目を履修していれば取得済みとみなされます。大学を卒業していない職員や指定科目を履修していない職員は、通信教育を受ける等してこの資格を取得しています。
ですから、都道府県や市で働いている行政(一般事務)職員は生活保護のケースワーカーとして働く可能性が十分にあります。
僕は県で行政(事務)職として働いていました。上記に該当しており、実際に縁あって生活保護のケースワーカーを経験しました。
また、生活保護ケースワーカーの性別や年齢は様々です。
男性も女性もいますし、採用されたばかりの子から定年前の方まで色んな人がいます。
なので、都道府県や市の職員として働いていれば、年齢や性別に関係なく生活保護ケースワーカーを経験する可能性があるということです。
生活保護ケースワーカーの業務内容
生活保護ケースワーカーは、生活保護を受けている各世帯の状況に応じて、その保護が適正に実施されることを目的に様々な仕事をします。
すべての業務を説明しようとするととんでもない文章量になるので、主なものだけをまとめました。
保護費の計算 | 生活保護受給者の家庭の状況や、生活保護の制度・基準に変更があるとそれを反映して保護費を計算し直します。 |
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保護費の支給 | 基本的に銀行振込ですが、現金での支給が必要な場合は窓口で手渡しすることになります。 ※実際にはケースワーカーが直接支給するのではなく、支給に立ち会う形になると思います。 |
家庭訪問 | 生活状況などを把握するために実際に生活保護受給者の家を訪問します。 |
資産や収入の調査 | 申告されていない収入や預貯金などがないか調査します。 |
病状調査 | けが・病気や障害のある生活保護受給者に病状について、主治医やかかりつけ医に調査します。直接医師を訪ねる場合のほか書面で調査を行う場合もあります。 |
就労指導 | 生活保護受給者の自立を支援するため、仕事を見つけるように指導します。 |
生活指導 | 適切に生活保護を受給するために必要な指導を行います。指導は多岐に渡り、ケースワーカーの仕事を難しくしている要因の一つです。 |
このほかにも色々とありますが、基本的な理解としては上記で十分でしょう。
ちなみに、生活保護ケースワーカーは担当している世帯の数だけ上記の業務を行うことになります(中には世帯によって不要な業務もあります)。
一人当たり80世帯を担当するのが標準ですが、大体どこの自治体もそれを超える世帯数を担当しています。僕は大体100世帯ほどを担当していましたが、別の自治体で働く友人は150世帯を担当していてビックリした記憶があります。
業務が難しい上に、担当している世帯数がとても多いという二重苦がケースワーカーの仕事がきついという一般的な評価につながっていると思います。
話を戻します。
ケースワーカーの仕事は担当している世帯(ケース)の対応だけではなく、新規の生活保護申請者への対応もあります。申請書が出されれば、申請者やその家族への面接を行った後、様々な調査を経て、生活保護開始の決定をします。当然、要件を満たしておらず却下になることもあります。
このほか、実際には申請に至らないものの生活保護の申請を検討している方の相談を受けるという業務もあります。
実際にケースワーカーを経験して感じたこと
少し僕自身の話をします。
僕は、採用されて最初の部署が財政課でしたし、財政課を出た後も一般的な事務仕事しか経験したことがありませんでした。さらに、福祉に関する仕事も全く経験したことがありませんでした。
ですから、当時の僕も生活保護についてはなんとなく漠然と
生活に困っている人に生活費を支給する制度
くらいにしか理解しておらず、ケースワーカーがどういう仕事をしているのかなんてまったく知りもしませんでした。
そのため、生活保護ケースワーカーの仕事はこれまで経験したことのないことばかりでただただ新鮮でした。どのくらい新鮮かと言うと違う業界に転職したような感じです。
むしろその感覚は正しいのかもしれません。県庁での事務仕事から福祉事務所での生活保護ケースワーカー。仕事の内容だけ見たらほぼ転職です。
僕が感じた新鮮だったことを具体的にいくつか紹介しますので、そこから生活保護ケースワーカーの仕事の実際を理解してもらえればと思います。
想像とは違っていた家庭訪問
ケースワーカーの仕事の一つに、生活保護を受けている家庭を訪問するという業務(=家庭訪問)があることは知っていました。
しかし、実際に引継ぎを受けて家庭訪問をしてみると、想像していたものとは全く異なりました。
家に上がり込んでじっくりと面接
基本的に家庭訪問では家に上がり込んでじっくりと何十分も面接をします。玄関先で立ち話程度くらいに考えていたのですが、そんなものではありませんでした。
初めて家庭訪問をした日の仕事を終えてようやく、「生活保護ケースワーカーとはここまで踏み込んだ仕事をするものなのだ」と理解しました。
一日の仕事の半分は家庭訪問
まさかこんなにも家庭訪問をするとは思っていませんでした。
家庭訪問がない日も稀にありますが、平均すると大体一日の半分は家庭訪問に行っている感じです。
午前中は事務所でデスクワーク、午後は何軒か回って家庭訪問
感覚的にはそんな感じです。
保健師や社会福祉協議会と一緒に訪問
生活保護を受けている人は同時に何かしらの問題を抱えているケースがよくあります。そのため、市町村や同じ県の保健師さん、社会福祉協議会の職員さんと一緒に訪問することがよくありました。
「生活保護のほかにも家庭訪問をする仕事がいくつもある」ということを知りました。
預貯金がないかは隅々まで確認
原則として、預貯金があっては生活保護を受給することはできません。
ですので、生活保護ケースワーカーは必要なとき(特に生活保護を開始するとき)に対象者が預貯金を保有していないかどうか確認をします。
このこと自体に特に驚きはないのですが、僕がびっくりしたのはその徹底した確認の仕方です。
基本的に通帳はすべて見せてもらいます。他人の通帳を見る機会なんて普通ないので最初は変な感じがしましたがすぐに慣れました。
通帳を見せてもらうだけでは別の口座を隠している可能性もありますので、金融機関に調査をかけます。「隠してもどうせバレるんだし、隠す人なんていないでしょ」なんて思っていましたが、意外と結構いたりして、僕の予想はあっさり裏切られました。意図的に隠している人もいましたが、中には預貯金があることをすっかり忘れてしまっている人もいました。
今でこそ徹底的に確認して当然だと思っていますが、当時は「ここまでするんだ」と驚いたものです。
病状の調査のために頻繁に病院を訪問
仕事で病院へ行く機会があるなんて思ってもいませんでしたが、結構な頻度で病院には行くことになりました。
何のために行くのか。それは、担当している生活保護受給者の病気の状態を調査するためです。
- どういう病状なのか?
- 本当に働けないのか?
- どのくらい働けないのか?
- 自立支援医療は適用できないか?
- 障害者手帳は取得できないか?
- 障害年金は受給できそうにないか?
こんなことを直接、主治医に確認します。
医師以外にも、受給者の生活の指導をするために、病院のソーシャルワーカーや介護福祉士から話を聞くこともありました。
行政職(一般事務)でこれほど病院に行く仕事はなかなかないと思います。
意外と多いデスクワーク
デスクワークも意外とあります。生活保護ケースワーカーは事務所で主に次のことをやっています。
ケース記録の記載
家庭訪問で面接をした内容など世帯に関することを詳細に記録します。内容の濃い面接をした後は、この記録を書くのにすごく時間を要します。そのため、実のある面接をした後は、充実感がある反面、ケース記録を書く作業が待っているので気が重かったです。
支給する保護費の計算のためのシステム入力
支給される保護費は世帯の状況に応じて計算されます。
子供は何人か?学年は?障害者手帳を所持しているか?就労収入はいくらか?年金はいくら支給されているか?
ほんの一例ですが、このような項目で保護費が計算されていきます。
ですから、世帯の状況に変更が生じたときはその内容を反映させて保護費を再計算する必要があります。現在はどこの自治体も生活保護業務のためのシステムがありますので、そのシステムに入力して計算することになります。
基本的に保護費は毎月支給されるため、毎月、決められた期限までに変更内容を入力する必要があります。
調べもの
生活保護ケースワーカーをしていると初めて聞く単語が山のように出てきます。毎日様々な人の生活や人生に関わっているわけですから当然といえば当然です。
そのため、インターネットや書籍を活用してわからないことを調べる時間も必然的に多くなります。
面接がスムーズに進むようにその受給者の特性に応じた知識(趣味など)を勉強することもありました。また、医師から病状を聴く際に事前にある程度の知識をつけておくためだったり、その世帯の自立に役立つ方法を探すためだったりと多様な理由で調べものをしました。
福祉・医療に関する様々な制度に触れた
生活保護制度には前提として他法他施策の優先というものがあります。簡単に説明すると
生活保護以外の法律や施策を優先して活用して、それでも足りない分を生活保護から支給する
というものです。
例えば、障害年金を受給できる方は、必要な生活費から障害年金の額を差し引いた不足分が生活保護から支給されます。
したがって、生活保護ケースワーカーは受給者が使える他法他施策の制度がないかを確認しなければなりません。仮に使える制度があった場合、その手続きをするよう指導することになります。
実際に僕も、年金、各種障害者手帳、介護保険、指定難病などの制度の手続きに生まれて初めて携わりました。
生活保護ケースワーカーが知っておくべき他法他施策に関してはコチラ↓↓の記事にまとめています。
また、他法他施策の知識不足を補うオススメ参考書についてもコチラ↓↓の記事で紹介しています。
興味のある方がぜひお読みください。
拘置所での面会も経験
あまりないケースですが、担当している受給者が逮捕されることもあります。僕が担当していたケースでも実際にありました。
受給者が逮捕・拘留されると生活保護が廃止や停止になります。そのため、そのことを通知しに拘置所に行って面会しました。
公務員なら生活保護ケースワーカーは経験したほうがよい(なぜならメリットが多いから)
僕自身、生活保護ケースワーカーを経験したわけですが、結果として経験して良かったと心から思っています。
なぜなら、行政(事務)職の公務員にとってメリットが大きいからです。
後輩にも「生活保護ケースワーカーは経験したほうがいいよ」とアドバイスしています。
具体的にどんなメリットがあるのか、こちら↓↓にまとめていますのでぜひご覧ください。
まとめ
本記事のまとめです。
- やむを得ない事情があって働けないような困窮者に対して、憲法で保障される健康で文化的な最低限度の生活が送れるように、生活費を支給したり生活の指導をしたりするのが生活保護
- 各世帯の状況に応じてその保護が適正に実施されるために働いているのが生活保護ケースワーカー
- 行政職(一般事務)の地方公務員であれば誰しも生活保護ケースワーカーを経験する可能性がある
- 生活状況を把握するために家庭訪問したり生活保護費の計算や就労支援をしたりとケースワーカーの業務は多岐に渡る
- ケースワーカーへの異動はまるで転職のよう。慣れるまでは驚きばかり
- 生活保護ケースワーカーは人気のない仕事だが、実は経験するとメリットが多い
最後に。
新人ケースワーカーの方はこちら↓↓の記事もご覧ください。僕がオススメする参考本を2冊紹介しています。
このほかの生活保護ケースワーカー関連の記事が気になる方はこちら↓↓からどうぞ。