公務員でも激務な状況で働いている人は少なくありません。
僕自身も県職員時代には激務な公務員でした。
今回は、激務な公務員に経験することのリスクとリターンをまとめた上で、僕自身が激務を経験して思ったことを書きたいと思います。
時間のない方は最後のまとめだけ読んでもらえればと思います。
ちなみに、本記事における「激務」とは、1人当たりの業務量が非常に多く長時間労働が避けられない業務環境を指しています。
リスク
まずはリスクから。
激務を経験することのリスクは3つあると考えています。
中でも3つ目については意外と意識していない人が多いので、重要だと感じています。
①健康を害する恐れ
当然ですが、激務は健康を害する恐れがあります。
激務すなわち長時間労働ですので、それが様々な健康問題につながります。
独立行政法人労働者健康安全機構の労働安全衛生総合研究所が出している『長時間労働者の健康ガイド』中の図が分かりやすかったのでそれを引用します。
長時間労働の健康ガイド(PDF) – 独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所HPより引用
こちらの図からもわかるとおり、激務が続くと、脳・心臓疾患や精神障害・自殺の危険性を高めます。
あくまでも僕の経験上では、激務な公務員には精神疾患が最も多いです。
精神疾患が最も多いだけであり、それ以外、具体的には脳・心臓疾患や胃腸系の疾患になった同僚もいます。
このように健康を害するリスクはかなり高いです。
②プライベートが無くなる
激務だと仕事に費やす時間ばかりになり、プライベートはほぼなくなります。
平日は帰ってシャワー浴びて寝るだけ。土日はどちらかでも休めたらラッキーなんて状況はざらにあります。
そうなってくると、まず趣味に費やす時間はなくなります。
そして、友人からの誘いを断るようになります。
初めの頃は誘われたときに「行けそうだったら行く」と返事して結局直前になって「仕事で行けない」とキャンセルするような感じです。しかし、それが段々つらくなってきて今度は最初から「忙しくて行けない」と返事をするようになります。
以降は誘いを断ることが続き、最終的には誘われなくなってきます。そうやって気がつけば友人が減っています。
以上のように、プライベートが無くなるリスクは、自分のための時間や友人といった大事なものがどんどん失われていくというリスクに直結するものだと考えるべきでしょう。
③(重要)激務から抜け出せなくなる
これが結構重要なのですが、一度激務を経験するとその後も激務な部署や業務を担当することが多くなります。
僕自身もそうでしたし、激務な公務員の知り合いは大体そんな感じでした。
一度激務に耐えられるという認定を受けてしまうと、その後も激務な部署や業務に放り込まれやすいということでしょうか。
いずれにせよ、一度この状況に陥ると激務が当たり前の公務員生活になってしまいます。
ここで理解しておきたいのは次の点です。
激務が何年間もずっと続くとそれに慣れてくるのですが、それは感覚が麻痺しているだけであって、実際は心も体も確実に蝕まれているという点です。
激務に耐えられた人でもそれがずっと続くと段々と耐えられなくなってきます。
財政課時代に仕事ができるなあと思っていた先輩方を見ても、財政課から異動しても激務、その次の部署もまた激務という人が結構多く、それが続くうちに割に合わないと言って県職員を辞めた人や、過労で倒れて出先送りになった人もいます。
このように、一度激務を経験して「無事に乗り越えられた!良かった!」では終わらせてもらえないという怖さが激務にはあります。
このことはしっかり理解しておく必要があります。
リターン
激務で得られるリターンは主に次の4つでしょう。
しかし、これらのリターンは必ず得られるものではないということも理解する必要があります。
①短期間で(役所業務の)経験値が増える
激務を経験すると短期間で経験値が増えます。単純に労働時間が増えるわけですから当然のことです。
簡単に計算してみたいと思います。
残業がない人の労働時間はひと月で大体170時間というところです。
では激務な人はどうでしょうか。
仮に月の時間外勤務が100時間だったとします。となると、この人の月の労働時間は270時間と計算できますね。100時間+170時間=270時間です。
したがって、月100時間の時間外勤務をしている職員は、定時帰りの職員の約1.6倍の時間仕事をしていることになります(270÷170=1.59)。
これは残業のない人が3年間かけて到達する勤務時間に、月100時間残業する人は2年間で届いてしまう計算になります。
このように、同じ期間でも激務な人ほど多くの経験値を得ることができます。
しかし、ここで誤解しないでいただきたいことが2つあります。
一つは、経験値は役所内でしか通用しない経験値がほとんだということです。
転職しても役に立つような経験値はあまり得られないと考えておくべきでしょう。
二つ目は激務を経験すると確かに理論上多くの経験値を得ることができますが、それはあくまでも労働時間という一観点からのみのだという点です。
仕事内容や効率によって得られる経験値は異なります。したがって、必ずしも激務な人のほうが経験値を多く得られるわけではないということに注意しておく必要があります。
いつも遅くまで残業している全員がほかの職員よりも成長しているかというと、必ずしもそうじゃないことを考えれば簡単なことですよね。
②激務を乗り切ったことで自信がつく
激務を乗り越えると自信がつきます。
あんな大変な状況を乗り切ったのだから大抵のことは大したことない、と思えてくるようになります。
終わりが見えないような業務に立ち向かうときは自信が何よりの糧になりますので、この「自信がつく」というリターンはとても価値のあるものです。
③残業代で収入が増える(条件あり)
激務を経験すれば、残業代で収入が増えます。
残業のない人と毎月100時間残業している人では基本給が同じでも実際の収入は倍くらい違います。
それだけ残業代のインパクトがあるということがお分かりいただけるかと思います。
ただし、これにも条件があります。
そうです。残業代がきちんと支給される場合に限るという条件ですね。
悲しいことに公務員でも残業代がきちんと支給されないケースが結構あります。
④評価される(条件あり)
激務を乗り越えられれば、「あいつ、よく乗り切ったな。すごい!」と周囲は思うことでしょう。そうやって周りからの評価につながります。
しかし、激務を経験したからといって必ず評価されるかというとそういうわけではありません。
場合によっては、「そんな簡単な業務にどうしてそんなに時間がかかっているんだ」と思われることだってあるのがつらいところです。
もし本当に仕事が遅いのであれば仕方ないでしょう。
しかし、そうじゃない場合であっても評価されないこともあります。
例えば、新しく発生した業務や、これまでは単純だったけど制度変更により難しくなった業務など、一見して困難とは思われない業務の場合は、頑張ったのに評価されない恐れがあります。
一方で、財政課のように激務であることが広く知られている場合は評価されることが多いですね。
僕の考え
ここで、自身の経験を踏まえつつ、激務に対する僕の考えにも触れたいと思います。
激務を乗り切ったときのリターンは魅力的だが、リスクに問題あり
このブログに初めてお越しの方もいらっしゃると思うので、説明しておきますが、僕は入庁してからすぐに激務でした。入庁して最初の部署が財政課だったりします。
そして、財政課を出た後も激務ばかりで、公務員生活の大半が残業と休日出勤だらけの日々でした。まさに、激務から抜け出せなくなった、という典型です。
しかし、そのおかげで、若いうちから重要な仕事をいくつも任され、いずれも自信を持って取り組むことができました。それなりに結果も出しましたし、人事評価では最高評価を三度もらいました。
加えて、残業代も満額ではないですが、支給されることのほうが多かったので、若手公務員にしてはそれなりの収入がありました。
そのため、激務を経験して得られたリターンはそれなりのものだと思っています。
しかし正直に言えば、激務を経験して得られたリターンには不満も残ります。
例えば、どんなに評価されても給料もボーナスもほとんど変わらないというところです。
それから、重要な仕事を任されたとはいえ、やりがいを感じることができませんでした。これが本当に住民のためになるのだろうかと本心では疑問に思うような仕事が多かったです。
加えて、(公務員という限られた世界ではなく“広義の社会人”として)自分自身の成長につながるような仕事も少なかったと感じています。
次に、リスク面はどうだったのかという点についても触れたいと思います。
当然プライベートはほとんどなかったので、趣味にあてる時間は限りなく少なくなり、友人とも遊べないし、恋愛をする時間もない公務員生活を過ごしました。
今振り返ると本当にもったいないことをしたと思っています。
二度と戻らない若い間の貴重な時間を仕事に全振りしていたわけです。それが役所以外の世界でも使える知識や経験になるのであれば投資としてありだとは思いますが、そういうわけではありませんしね。
20~30代の時間って本当に大事だと今になって思います。
がむしゃらに仕事していると、無駄にしているという実感がないんですよね。むしろ仕事に打ち込んでいるから良い時間の使い方をしていると錯覚してしまいます。それが本当に社会にとって自分にとって意味のあることなら確かに無駄にしていないのですが、そうではないことが多かったと思います。
激務で得られるリターンは確かにあったがそれは限定的。健康を犠牲にした上で貴重な時間を全力で投資していると考えると、得られるリターンとしては物足りないと言わざるを得ません。
そして次に健康。この視点でもお話しする必要がありますね。
僕はなんとか激務を乗り切れたわけですが、それはたまたま僕が体や心を病むことがなかったから乗り切れただけの話です。
病気になり仕事を休むことになった同僚を何人も見てきました。
中には県職員を辞めてしまった人もいますし、復帰してはまた病気休暇を繰り返している人もいます。
それを見て、彼ら彼女らが弱いからだとは僕は思いません。
僕がまた激務を経験して次もまた病まずに乗り切れる保障はありません。次同じ経験をしたら僕が病気になる可能性は十分にあります。
一度激務で病気になると、それを繰り返したり、最悪、そのまま辞めてしまったりすることもあります。
結果として今になって思うことは、
公務員として再起不能になったり、泥沼に陥ったりする可能性があるリスクを負うのは危険すぎる
ということです。
やり直しがきくようなリスクであればよいのですが、病気になったり、激務のスパイラルから抜け出せなくなったりするリスクなんて、「いざヤバくなったらさっさと辞めてやるぜ」と実践できるような強メンタルな人以外が負えるような代物ではないと思います。
一言でまとめると、激務を経験することのリスクは普通の人には重すぎる、ということです。
激務な公務員の方に伝えたいこと
ここまでお読みいただいた現役公務員の方、もしくはこれから公務員になられる方に僕から伝えたいことも書いておきます。
自分のキャパをはるかに超えてまで無理して仕事をする必要はない
この一言に尽きます。
激務を経験することで得られるものはありますが、失うもののほうが多い可能性があります。下手をすれば取り返しのつかないことになってしまいこともあります。
真面目な方や責任感のある方、人のために頑張れる方が、精神的な病にかかって仕事を長期お休みする姿を何度も見てきました。本当に悲しいですし、社会にとっての損失だと思っています。
社会人として無理をしてでも頑張ることが時には必要な場合も当然あると理解しています。しかし、それが慢性化してはいけません。ましてや病気になっては元も子もありません。
こんなブログで何人の方に届くかわかりませんが、そんな公務員が一人でも減ればとの思いから、今回の記事を書かせていただきました。
激務な状況に陥りやすい人の特徴に当てはまる方は、自分のキャパをはるかに超えた仕事が降ってきたときには、それを断る勇気をぜひ持ってほしいと思います。
下の記事は、激務になりやすい人の特徴についてまとめています。
こちらも参考にしてください。
まとめ
最後に本記事の内容をまとめたいと思います。
リスク |
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リターン |
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激務を経験することに対する僕の考えをまとめると以下のとおりです。
リターンはあるが限定的。健康を犠牲にして貴重な時間を全力で投資していると考えると、得られるリターンとしては物足りない
⇒再起不能になったり、泥沼に陥ったりする可能性があるリスクは危険すぎる。そんな危険なリスクは負うべきではない
⇒結論としては激務はオススメしない
そして最後に、「激務な公務員に伝えたいこと」についてもまとめておきます。
激務を経験することで得られるものはあるが、失うもののほうが多い可能性が高い。また、下手をすれば取り返しのつかないことになってしまう
⇒自分のキャパをはるかに超えた仕事が降ってきたときには、それを断る勇気をぜひ持ってほしい