自治体によって名称や形式が多少異なるかもしれませんが、どの自治体でも異動希望調査が行われていると思います。この調査で職員の異動希望が確認されるわけですが、なかなか希望どおりには異動できないのが現実です。
そうした中、僕は県職員時代に希望する部署に異動できたことがあります。
なぜ希望が叶ったのか。
自分なりに分析した結果、異動希望先の書き方が良かったことも一つの要因ではないかという結論に達しました。
というわけで今回は、公務員時代に僕が実際にやっていた異動希望先の書き方をお教えしたいと思います。
異動希望先の書き方が良ければそれだけで希望が叶うわけではない
冒頭で「異動希望先の書き方が良かったことも一つの要因ではないか」と書きました。
そこで「一つの要因」という言い方をしたのは、異動希望が叶うかどうかは異動希望先の書き方だけで決まるものではないという理由からです。
僕が異動を決めたわけではないのであくまでも憶測ですが、異動希望が叶ったのは次の4つをクリアできたからだと考えています。
- その時の異動タイミングで僕が希望する職場にちょうど僕が異動できる枠があった
- 異動前の部署が僕の異動を認めてくれた
- 僕個人への評価が希望先の部署が求める人材と合致していた
- 役所全体で考えても適材適所あるいは将来的に有益な人事だと人事部門が判断した
このようにいくつもの条件をクリアして異動希望が叶ったわけですが、それらをクリアするにあたっては異動希望先の書き方が大きく影響したと思っています。
例えば人事部門の担当者とは異動の面談なんてありませんが、人事部門はどうやって僕の異動を判断をしたのでしょうか。
基本的には僕が書いた「異動希望先とその希望する理由」を読んで人事部門は判断してくれたと僕は考えています。
ここで僕が言いたいのは
異動希望先の書き方が良ければそれだけで希望が叶うわけではないが、異動希望先の書き方次第では希望が叶わない可能性は十分にある
ということです。
このことは必ず理解した上でこの先をお読みください。
異動希望調査の中で重要な項目「どこの部署で勤務したいか」
異動希望調査とは、人事部門が各職員に対してどの部署で勤務したいのか希望を取るために実施する調査です。
調査の名前やどのような形式で行われるのか等、自治体によって多少異なってきますが、基本的にどの自治体でも行われているものだと思います。
異動希望調査では、異動希望の有無や、どこの部署で勤務したいか、どういう業務をしたいのか、都道府県であればどの地域で働きたいかといったことが確認されるのが一般的です。
これらの中でも特に重要なのが「どこの部署で勤務したいか」という項目(=希望する部署についての項目)です。
希望する部署に配属されるケースは少ないが、組織である以上それは当然
一般的には異動希望なんて叶わないケースがほとんどです。
しかしこれは当然のことだと僕は思います。
自治体も組織ですので、組織としての全体最適を考えなければなりません。そのためには個人の希望よりも組織の事情が優先されてしまいます。このことは役所に限らず、民間企業(特に大企業)でもジェネラリストが多いような組織であれば同じことが言えるでしょう。
極端な話をしますが、全員の希望を叶えようとすると、当然ながら人気の部署に人員が集中してしまいますし、逆に不人気の部署には誰も来てくれないという事態になります。これでは組織として機能しませんよね。
また、仮にAという業務に適性のある佐藤さんという職員がいるとして、その佐藤さんが自分には適性がないBという仕事を希望しているとします。状況にもよりますが、佐藤さんはAという業務に従事したほうが組織全体で考えれば効果的だと考えることができます。
このことを踏まえると、一般的にジェネラリストが多い組織である役所においては、職員の希望は叶いにくいと考えるのが至極当然です。
ただし、これには例外があります。
それは希望する部署が多くの人にとって配属されたくない部署の場合です。
この場合は、その部署を希望している時点で組織全体のためになる可能性を秘めているため、希望が叶う可能性があります。
【ポイント】内容に説得力のあると希望が通りやすい
一般的に職員の希望は叶いにくいと言いました。ここで勘違いしてはいけないのが、あくまでも「叶いにくい」ということであって「叶わない」ということではないということです。
ではどうすれば、希望を叶えられる数少ない職員になれるのでしょうか?
僕は次のように考えています。
希望する部署を書く際に、説得力のある希望理由であればあるほど希望が叶う可能性が高くなる
では、なぜそう考えるのか。それをこれから説明しますね。
仮に僕が人事異動を決める人事部門の職員だとします。
僕はまず、身体的なハンデや家庭の事情等でやむを得ないものを最優先します。
そして次に優先すべきは、希望理由に納得ができて、且つその希望どおりに配属させることが役所にとって一過性ではなく将来的にも意義があると思えるものになります。
ということは
身体的なハンデ等のやむを得ない理由を除けば、希望が叶うかどうかは、いかに人事部門を納得させられるか、そして将来的にも意義があると思わせられるか
ここがポイントになってくるわけです!
希望理由に説得力を持たせる方法
では、どうすれば希望理由に説得力を持たせることができるのでしょうか。
僕の考えをこれからお話ししたいと思います。
興味があるから?やりがいがあるから?スキルを活かせるから?そんなものはどれも説得力がない
言いたいことはまんま見出しに書いているとおりです。
興味があるから、やりがいがあるから、スキルを活かせるから
どれも主観だけで目先しか見ていないと思いませんか?
ここで、役所にとって人事異動の目的を考えてみましょう。
役所によって多少の違いはあるでしょうが、僕は基本的に次の4つだと思っています。
- 短期的・中長期的な適材適所を実現するため
- 職員をより成長させるため
- 将来的な幹部を育成するため
- 不正を防止するため
このような目的の中で、役所の将来も考慮しつつ組織全体のことを考えている人(すなわち人事部門の職員)が、異動先の調整でクソ忙しい時期に上記のような理由を見てどう思うでしょうか?
このあたりをしっかり考えると、僕がなぜ説得力がないと言っているのかが理解できると思います。
必要なのは自分のキャリアや外的環境の変化も見据えた多角的視点での理由
では、将来のことも考慮しつつ組織全体のことを考えている人(=人事部門の職員)には、どういう理由だと希望理由が刺さるのでしょうか。
それは簡単です。
「私だって将来のことや組織全体のことまでしっかり考えていますよ!」
ということが伝わる理由であればよいのです。
具体的に言うと
「目先のことだけにとらわれず、キャリアビジョンや今後組織を取り巻く環境の変化まで踏まえたもの」
であって且つ
「自身が組織にとって必要な人材に成長できるというキャリアパスが描けているもの」
であればよいと思います。
また、この他にも
自分にアピールできる強みがあるのであれば、希望している部署がおかれている状況を正しく把握した上で
「これまでのキャリアで得た知識や経験が希望先の部署の課題解決に寄与できる」
という内容でも良いでしょう。
先ほど、「スキルを活かせるから」という理由は説得力がないと言いましたが、これはそれだけでは言葉足らずという意味です。
単にスキルを活かせるからというだけでなく、それを活かすことで希望先の部署に何をもたらすのかを示すことが重要というわけです。
【具体例①】将来から逆算して考えよう!
では具体的にどのように希望理由を書けばよいのでしょうか。
実際に僕が書いた具体例で説明します。
将来から逆算して自分が今何をすべきかという逆算の思考で書いていくだけです。
例えばこんな感じです。
○○年後、本県(市)にとって重要になるであろうAという業務において×××という職責で活躍したい。そのためには△△△の知識・スキルが必要になるため、その経験を積むために次はZという部署でBという業務に従事したい。
どうでしょう?
説得力があると思いませんか?
このロジックで自分のケースに当てはめて書いてみると良いでしょう。
この考え方に慣れていない方には最初は難しいと感じるかもしれません。
そんな方はまずこちらのキャリアパスの正しい考え方【地方公務員(事務系・行政職)向け】をお読みいただくことをオススメします。
キャリアパスは、考え方さえ正しく理解できていれば必ずきちんとまとめることができるはずです。
キャリアパスがまとまりさえすれば、後はシンプルにロジックに当てはめるだけです。
注意しておきたいのはここで紹介したロジックはあくまでも一例です。
希望する部署や業務によっては、このロジックでは書きづらいこともあるかもしれません。
あくまでも「私だって将来のことや組織全体のことまでしっかり考えていますよ!」という思いが伝わる理由になっていることが重要です。
【具体例②】希望している部署に自分がもたらす利益を考えよう!
先ほどの例とは少し違って、自己PR的なアプローチでの具体例も紹介しておきます。
まずは、希望している部署のことを徹底的に調べます。
業務内容はもとより、今どういう課題を抱えているか、最も注力している事業は何かといったことです。
これを知ることで、その部署がどういう人材を求めているのか、その理由を含めて明確になることでしょう。
これができたら次は自分の強みの棚卸しを行いましょう。
公務員になってからこれまでに(前職があればそこも含めて)、どういう業務を経験して何を得たか、他の職員より秀でているもの(強み)が何か。
これをしっかりと整理します。
そして次に、希望している部署で自分の強みがどう活かせるかを考えましょう。
その際、こういう課題が解決できるとか、注力している事業がより良いものになるといった感じで、部署にとってのメリットを明確にしておくことが大事です。
ここまでできれば
その部署が求めている人材には自分が適任であり、こういう成果をもたらすことできます!
という流れでまとめることができるはずです。
これはつまるところ「自分の売り込み」です!
自分自身を商品だと思って、その商品をお客さん(あなたが希望している部署)に売り込むイメージで考えるとわかりやすいでしょう。
例えばこんな感じです。
いかがでしょうか。
先ほどとは違うアプローチですが、これはこれで説得力がありますよね。
ただし、このロジックには難点があって、それは誰しもが使えるわけではないということです。というのも、自分自身に強みがあって、それが部署の求めているものであることが前提になるからです。
特に経験の浅い若手のうちはなかなか強みがないでしょうし、あったとしてもそれが希望する部署の求めるものとは一致しないことが多いでしょう。
そういう場合はこのロジックで書かないのが賢明です。無理して書くとこじ付けのようになってしまい、説得力を持ちません。
ですので、素直に最初に紹介した具体例で書いたほうが良いでしょう。
異動希望調査に記入する際のポイント
ここまで読まれた方は、異動希望調査の書き方についてその考え方やロジックは理解できたかと思います。
次は、実際に異動希望調査に記入する際のポイントを説明していきたいと思います。書き方によっても説得力に差が出ますので注意してくださいね。
提出が手書きの場合でもまずはパソコンでしっかりと文章を練る
調書が手書きの場合でも、まずはパソコンでしっかり文章を練りましょう!
そして自分が納得できる文章になるまで何度も推敲すべきです。
何度も推敲して納得できる文章が完成してから実際の調書に記載しましょう。
信頼できる人から希望理由に対する意見をもらう
信頼できる人がいれば、その人に見てもらって意見をもらうとなお良いです。
あなたが本気で考えた希望理由であれば他人に見せられるはずです。逆の言えば、人に見せるのが恥ずかしいような理由には説得力なんてないと僕は思います。
理由欄がない場合はその他とか自由記述欄に書く
希望理由は書かなければ伝わりません。
希望理由を書く欄が無いからというだけで書くことを諦めるのは勿体ないです。
どこでもいいので書ける欄があればそこに理由をしっかりと書きましょう。
書いても読まれない可能性だってあります。
しかし、書いていないと絶対に読まれません。
書いてさえいれば読まれる可能性はある、だったら書かないと損ですよね!
記載内容に過去の調査を含め一貫性をもたせる
調査が毎年行われるものであれば、過去の調査に記載した内容と一貫性を持たせましょう。そこに一貫性がないと説得力が落ちます。
先ほど僕が説明したロジックに沿って希望理由を書いていれば、そこには、あなたが考えるキャリアパスが書かれているはずです。
ここで必ず理解しておいてほしいのが
過去に書いたキャリアパスと異なるキャリアパスに説得力はない
ということです。
とはいえ、きちんとした理由があって今後のキャリアパスが変わることだってあり得ます。そういう場合は納得できる理由をきちんと書けば問題ないと思います。
震災支援で被災自治体に派遣された際の経験を通して、本県(市)でも○○という分野に力を入れる必要があると感じ、その分野で頑張りたいと思うようになった
これだとキャリアパスが変わっても納得ができますよね。
とはいえ、毎年毎年変わるのはさすがに良くないでしょう。
この辺については、異動先を決めるにあたって何年間分の調査内容が使われるかが役所によって異なると思います。
“うちの役所では異動先の決定にあたって過去の異動希望は考慮されていないらしい”
もしそんな噂があったとしても、それを鵜呑みにせず慎重に考えるべきだと思います。
人事部門経験者でもない限り確実なことはわからないのですから。
希望が叶わなくても大丈夫!前向きになろう
どんなに説得力のある希望理由を書いても、その希望が叶わないなんてことは十分にあり得ます。
むしろ叶わない可能性のほうが高いのではないでしょうか。
今更そんなこと言うの?
と思われるかもしれませんが、残念ながら事実です。
冒頭で申し上げたとおり、全員の希望を叶えることは無理だからです。
しかし、ここで僕が伝えたいことは
希望が叶わなくても悲観する必要はない!
ということです。
未知の仕事に出会えるチャンスと捉える
希望が叶わなかったとしても、行政職(一般事務)には色々な種類の仕事があります。
そしてほとんどの人にとっては、業務内容を知っている仕事よりも、知らない仕事のほうが遥かに多いはずです。
僕自身も経験があることですが、全然知らなかった仕事でもいざやってみると「なかなか楽しいじゃん!」なんてこともあります。
望んでいない仕事であっても得られることは沢山ある
自分が望んでいない仕事って、そもそもその仕事のことをよく理解していないという場合が多くないですか?
なんとなく人から聞いたイメージでそう思っていたり、誰かがそう言っていたから自分もそうだと決めつけていたり。
なので、いざその仕事をやってみると「イメージと全然違った!」なんてことはよくあります。
実際に僕の例を挙げますね。
僕は、生活保護のケースワーカーはあまりやりたくない仕事の一つでした。
「ケースワーカーは大変だよ」って言っている人が周りに結構いたから、それを鵜呑みにしてそうなんだろうと思い込んでいました。
ところが実際にやってみると、たしかに大変ではあるけれでも自分にとってはそれほど苦にならない。むしろ得られるものばかりで行政マンとしてすごく成長できました。
今ではその仕事ができて良かったと心から思っています。
このことについては↓の記事にまとめていますので、気になった方は読んでみてください。
前向きになろう
思い描くキャリアとは外れても実際には自分にとってプラスになることもあるということを述べてきたのですが、これはキャリアデザイン論において金井壽宏教授(立命館大学)が提唱している「キャリアドリフト」と呼ばれるキャリア理論にも当てはまりますし、考え方としても間違ってはいないと僕は思っています。
>>「働くひとのためのキャリア・デザイン」(金井壽宏)
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人間誰しもモチベーションが上がる仕事や自分の価値を発揮できる仕事をしたいと思うのは当然です。
しかし、それに固執していては成長速度が落ちてしまいます。
公務員も一社会人です。
キャリアデザインを明確にして、それに沿ってキャリアを積み上げていけるのが理想的ですが、軌道修正しながら成長していくことにも十分に価値はあります。
むしろ事務系公務員の場合はそのようなキャリアパスを歩む人のほうが多いと思いますし、そのような人が出世したり多大な成果を上げたりすることは稀ではありません。
これらのことを踏まえると、どの部署で仕事をするかはさほど重要ではないということが理解いただけるのではないでしょうか。
キャリアコンサルタント資格を持つ岡田淳志さん(伊勢崎市総務部職員課長補佐(兼)人事係長)も著書『公務員が人事異動に悩んだら読む本』(2022/3/22、学陽書房)の中で次のように記しています。
キャリアも計画的に経験を積んでいくよりも、仕事をしながら徐々に自分らしいキャリアを形づくっていくイメージがしっくりくるのです。もちろん、節目ごとに過去を振り返り、進む方向性を書き直すことも必要な場合もあるため、決してキャリア・デザインという言葉を否定するわけではありません。
僕自身、キャリアデザインは大事だと当ブログでも主張していますが、自治体職員だと現実的に岡田さんの言うように「仕事をしながら徐々に自分らしいキャリアを形づくっていくイメージがしっくりくる」という点には同意します。
行政系の公務員である以上、異動はずっと付きまとってくるものです。
平均5年で定期異動するとしても、定年までに7~8回は異動を経験する計算になりますよね。
希望する部署にいけなかったとしても成長機会と捉えて前向きになれば良いのです。
いずれ希望する部署に異動できたときにそこでの経験が絶対に活きます!
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まとめ
本記事の要点をまとめます。
- 異動希望調査で書いた希望の部署に行けることは稀
- しかし、説得力のある希望理由を書くことで希望が叶う可能性は高くなる
- 説得力のある希望理由にするコツは、将来像から逆算しながら今後のキャリアパスを描くということ
- 希望理由を書く際は推敲をしてしっかり考えること(人から意見をもらうとなお良し)
- 希望が叶わなくても悲観せず前向きになろう!
いかがだったでしょうか。
今回は、「異動希望が通るためにはどうすればよいか」という点にフォーカスした記事ですが、本質は次の2点だと思っています。
- 「自分のキャリアパスをしっかり考えよう!」
- 「希望する部署に異動できなくてもそこでベストを尽くすことが今後につながる」
公務員は得てして公務員になった時点で自分のキャリアに満足してしまいがちです。
果たしてそれで良いのでしょうか。
ありきたりな言い方をすれば
あなたは公務員になってようやくスタート地点に立った
と言えます。
そこからどう成長してどう自治体に還元していくか。そのことをしっかり考えて業務に励むことが重要だということを覚えておいてほしい。僕はそう思います。
本記事があなたの公務員人生の一助になれば幸いです。
なお、本記事の途中でも紹介しましたが、こちらの記事も異動希望を考えるにあたって参考になると思います。
ぜひお読みください!
>> キャリアパスの正しい考え方【地方公務員(事務系・行政職)向け】