僕は約10年間の県職員時代に生活保護ケースワーカーを経験しました。
公務員の仕事の中で、あまり良い印象を持たれていない仕事の一つですね。
生活保護ケースワーカーは一般事務や行政職として公務員になった人でも普通に従事する可能性があるので、なるべくなら経験したくないと思っているのが一般的だと思います。
しかしこの仕事、実は行政(事務)職の地方公務員にとってメリットがとても多い仕事だと僕は思っています。
僕が後輩にキャリアプランのアドバイスをする際にも必ず「生活保護ケースワーカーは経験しておいたほうがよい仕事だよ」と説明するほどです。
では、具体的にどういうメリットがあるのでしょうか。
実際に生活保護ケースワーカーをしたことのある僕が、3つのメリットとその理由をお教えします。
※生活保護ケースワーカーの仕事をあまり知らないという方は、まず下の記事を読んでから本記事を読むほうが理解しやすいと思います。
(メリット1)誰もが認める現場での経験が積める
行政職や一般事務の地方公務員であれば、仮に自分が担当している仕事が現場仕事ではなかったとしても、そのほとんどは、ゆくゆくは現場での仕事につながっています。例えば、生活保護の基準が変更になったことを市町村や出先の福祉事務所に通知する仕事を例にとってみましょう。自分自身は県庁で仕事をしていても、その通知を見て仕事をするのは生活保護のケースワーカーであり、現場の職員です。
このように、行政マンの仕事は現場の仕事と切っても切り離せないものです。中には現場とは全く縁のない仕事ばかりを経験していく職員もいるかもしれませんが、そんな人はかなり稀と言えます。
現場の経験があると、現場の職員と関係のある仕事をする際に業務をスムーズに考えられるようになります。それと同時に、現場の職員から信頼されるようにもなります。
つまり、現場の経験があるとそれだけ仕事がやりやすくなるというわけです。
そのため、僕は、行政マンであれば現場での仕事は経験しておくべきだと強く思っています。では、行政職(一般事務)が携わることのできる現場の仕事とはどういうものがあるのでしょうか。代表的なものに、生活保護ケースワーカー、児童相談所のケースワーカー、徴税吏員(税金の徴収などを担当する職員)などがあります。どれも大変な仕事ですが、これらの経験があるだけで、「あぁ、この人はきっと現場で揉まれた人なんだろうな」と大抵の人が思うはずです。
そんな中でも生活保護のケースワーカーは特に現場経験として評価される仕事だと思います。
(メリット2)福祉と医療を広く学べる
生活保護には「他法他施策の優先」という原則があります。他の法律や施策を優先して活用してそれでもなお不足する部分に生活保護が適用されるという考え方です。
例えば、担当している生活保護受給者がうつ病で精神科に通院していたとします。そのとき、その医療費はどこから出ると思いますか。「全部、生活保護から出るんじゃないの?」と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。実は、自立支援医療(精神通院医療)と呼ばれる医療費を助成する制度を適用した後、残る自己負担分だけを生活保護から出すことになります。
※他方優先に関してはこちらの記事に詳しくまとめています。自分でもかなり上手にまとめていると思うのでぜひお読みください。
すなわち、生活保護のケースワーカーは、自身の担当ケースが精神科に通院しているときには、自立支援医療(精神通院医療)の手続きをするよう指導する必要があります。
この自立支援医療(精神通院医療)は一例に過ぎません。この他にも、障害者手帳や年金、指定難病など、生活保護ケースワーカーは「こういうケースのときにはこういう制度が利用できる」ということを幅広く知っておかなければなりません。
このように、生活保護のケースワーカーは、生活保護より優先される福祉・医療制度全般を幅広に学ぶ必要があります。これは言い換えると、生活保護ケースワーカーを経験することで福祉と医療についての知識を幅広く身に付けることができるということです。
福祉と医療というのは行政においてとても重要な分野です。
福祉や医療を知らずして一流の行政マンとは言えません。僕はそう考えます。そういう意味では、必要最低限のレベルの知識を手っ取り早く身に付けることができる生活保護ケースワーカーは、行政マンが成長するにはうってつけの仕事だと思います。
(メリット3)異なる職種の公務員との人脈ができる
生活保護のケースワーカーは他の職種と連携して動く機会が多いです。自治体ごとに多少異なるとは思いますが、特に、保健師さんや児童福祉士、精神保健福祉士といった職種の方との連携が多いように感じます。
生活保護を受給している世帯の中には高齢者のみの世帯もあります。こういうケースの場合、生活保護だけではなく、高齢者ケアといった部分で市区町村の保健師も関わってきます。それに、必要としている支援次第では社会福祉協議会の方が関わることもあります。
同様に、子供がいる家庭であれば、母子保健の保健師が関わりますし、家庭の状況によっては児童福祉士が関わることもあります。精神疾患の患者さんがいる家庭であれば、精神保健の保健師や精神保健福祉士が関与することもあります。
また、先ほど説明した他法他施策の手続きについても、制度の多くは都道府県や市区町村で受付をしているため、そこでの保健師との関わりもあります。例えば、指定難病は道府県の保健所で受付をしていることが多いですし、自立支援医療(精神通院)であれば市区町村で受付をしています。
このように、生活保護ケースワーカーとして働くと、普通に行政職や一般事務として働いているだけではなかなかないような職種の人たちと一緒に働く機会に恵まれるという利点があります。
こういうつながりを通じて多様な人脈を広げることで、視野が広く柔軟な考えを持った行政マンになれます。
ちなみに、道府県職員のケースワーカーであれば町村の生活保護を担当することになりますので、必然的に町村役場の職員(主に福祉担当の職員)との人脈ができます。
【重要】これらのメリットは手抜きせずに精一杯全うしてこそ得られるもの
生活保護ケースワーカーという仕事は、手を抜こうと思えばいくらでも手を抜ける仕事だと僕は思います。
その一方で、正面から向き合って精一杯全うしさえすれば、必ずそれに応じた対価が得られる仕事であるとも思っています。裏を返せば、精一杯取り組まなかった者は、大した成長も人脈も得られないということです。
良くないことですが、実際に僕の周囲にも手を抜いている職員が何人もいました。だからこそ、自信を持ってそう言えます。
僕自身、生活保護ケースワーカー時代は、手抜きなど一切せず、真剣に仕事に向き合いました。そのおかけで僕は成長できましたし、貴重な人脈を得ることができました。そして、それらはその後のキャリアでとても役に立つものであったと実感しています。
このことは僕が何か特別だったからではありません。誰であれ真面目に仕事に取り組む行政マンであれば、生活保護ケースワーカーの経験はきっとその人にとって大きな力になるはずです。
(参考)生活保護ケースワーカーの仕事をもっと知りたい方にオススメの良書
僕のつたない説明でどこまで伝わったかわかりませんが、本記事を読んで生活保護のケースワーカーの魅力が少しでも伝わったのなら嬉しいです。
もしケースワーカーの仕事に興味を持たれた方は『フクシノヒト こちら福祉課保護係』という本を読むとより仕事のイメージが掴めると思います。
どういった本かという点を簡単に説明します。主人公は安定志向で役所に就職した新人公務員。その主人公が生活保護の担当に配属され、色々な経験をしながら成長していくストーリーです。
生活保護のケースワーカーは重い案件に携わることになりますが、それが軽妙に描かれていてパラパラと楽しく読めると思います。生活保護という重いテーマでありながら、物語的にも面白いですし、キャラクターも魅力的です。なので楽しみながらケースワーカーという仕事の実態を垣間見れることと思います。
経験者として細かい目線で読むと若干実態と異なる部分もあったりもしますが、大きくはズレてないので問題はないでしょう。ケースワーカーの仕事を知るには十分ですし、とても読みやすい良書だと思います。
また現役のケースワーカーの方や経験者の方にも共感できる部分が結構あって楽しめると思いますよ。
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こちら↓↓は続編です。
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個人的には2巻のほうが共感できる部分があって楽しめました。ぜひ2巻まで読んでほしいです。
まとめ
今回のまとめです。
- 誰もが認める現場での経験が積める
- 福祉と医療を広く学べる
- 異なる職種の公務員との人脈ができる
- これらのメリットはどれも行政(事務)職の地方公務員のキャリアにおいて役に立つもの
- ただし、これらのメリットは生活保護ケースワーカーという仕事を手抜きをせずに精一杯全うしないと得られない
以上、生活保護ケースワーカーを経験する3つのメリットでした。
もし生活保護ケースワーカーへの配属が決まって憂鬱な気持ちになっている方がいれば、本記事を読むことで前向きな気持ちになってもらえれば幸いです。
そして一人でも多くの行政マンが生活保護ケースワーカーを経験して、立派な行政マンになってほしいと思います。興味を持たれた方は先ほど紹介した『フクシノヒト こちら福祉課保護係』も読んでみてくださいね。
最後に。新人ケースワーカーの方はこちら↓↓の記事もご覧ください。僕がオススメする参考本を2冊紹介しています。
このほかの生活保護ケースワーカー関連の記事が気になる方はこちら↓↓からどうぞ。