大規模な災害が発生した際、被災した自治体に対して全国の自治体が職員を派遣して人的な支援を行うのが一般的です。
僕が公務員(職種は事務職でした)になってからでも、東日本大震災や熊本地震、九州北部豪雨といった大きな災害が発生しましたが、僕自身、被災地支援に派遣された経験があります。
被災自治体での経験は僕にとって非常に意義のあるものでした。
当然、被災地の復興に寄与するという大きな意義があるわけですが、それ以外にも自分が働く自治体にとってもプラスになる経験だと思いましたし、自分自身の考え方にも大きな影響を与えました。
この経験から、僕は公務員であれば被災地支援は絶対に経験すべきだと思っています。
以下、詳しくお話ししたいと思います。
僕が経験した被災地支援
僕は東日本大震災と熊本地震のときに被災自治体への人的支援で派遣されました。
それぞれについてお話したいと思います。
東日本大震災での派遣
東日本大震災は地震発生から約1ヶ月後に派遣されました。
期間はたしか2週間だったと思います。
被災地支援は初めての経験だったのですが、現地に到着したときにはあまりの光景に正直言葉が出ませんでした。
あのときの衝撃は未だに忘れません。
倒壊した建造物や瓦礫があちこちにあり、道路も規制ばかりで本当にびっくりしました。これまで被害の状況をテレビや新聞で観てはいてもどこか現実感がなかったのですが、一瞬にして現実として受け入れました。
そして、被災地のために自分のできることを精一杯やってやろうと強く決意しました。
避難所の運営業務を担当
地震発生から1ヶ月が経過しており、役所の様子は大混乱という感じは収まっていました。しかし、平常時とはかけ離れた状況でした。
東日本大震災での被災地派遣では僕は避難所の運営業務を担当しました。
避難所は災害で住まいを失った方などが文字通り避難してくる場所です。大勢の人が共同生活を送ることになるので、避難所の運営は重要な業務です。
初めて顔を合わす職員たちで協力して業務を行うわけですが、非常事態である上にわかりやすい共通目的で仕事をしていることもあり、意外とスムーズに協力して仕事ができたように記憶しています。
業務内容についても、地震発生から1ヶ月が経過していたこともあり、業務手順などはかなり明確になっていました。
とはいえ、やはり想定外のことがそれなりに発生しましたので、その対応には苦労しました。
しかし、ここでこの苦労があった分、後の熊本地震での派遣のときにその経験が役に立ったということも事実です。
また、今でこそ避難所のあり方はかなり議論されるようになってきており、避難所での生活の質は改善してきていますが、当時の避難所はまだまだ課題だらけでした。
僕も含め避難所での業務にあたっていた人は皆様々な課題を感じていたと思います。
東日本大震災で避難所運営業務にあたった職員はかなりの人数に上ります。それもあって、東日本大震災以降、避難所の生活の質の改善について、行政側も自らの課題としてしっかりと考えるようになったのだと思います。
熊本地震での派遣
熊本地震では地震発生から1週間後に派遣されました。
期間は東日本大震災のときより短い1週間。
>地震発生から1週間後とかなり早いタイミングで派遣される職員の一人に僕が選ばれたのは、東日本大震災での派遣の経験があったからと説明されました。
なので、同じタイミングで派遣される職員の多くは東日本での派遣の経験がある職員でしたね。
派遣先は被災した熊本県内のとある町です。
被災して1週間でしたので、まず現地で水道が使えませんし、食料も限られていました。加えて、近くに泊まるところがないために、車で片道1時間くらい離れたホテルから派遣先の自治体に向かうという毎日でした。
罹災証明書の申請受付業務を担当
担当した業務は罹災証明書の申請受付業務でした。
現地(罹災証明書の受付会場)は住民でごった返していて騒然としていました。
到着してすぐに前任者から引き継ぎを受け、訳も分からないまま業務に従事します。
派遣先の自治体の職員さんですらちゃんと理解していないのでは?と思うような状態で業務をしています。まあ考えてみれば当然といえば当然で、この人たちだってそもそも罹災証明書に関する業務などやったこともないのですからね。
わからないことを質問しても回答できる職員がおらず、とにかく自分で調べてなんとかするしかないという状況。とはいえ、手元にパソコンもインターネットもないので、私用のスマホで色々検索しながら対応するという感じでした。
当然、指揮系統はぐちゃぐちゃで、今現在この業務にあたっている人が何人いるのかもわからないような状況でした。
僕が派遣されたチームでは、定年間近の管理職経験者(当然、初対面です)がいたのですが、その方がなかなか有能でとてもよいリーダーシップを発揮してくれました。なので、2日目からはそれなりにチームとして機能していたと思います。
仮にこういう適切なリーダーシップを発揮できる人が一人もいない場合、きっととてもパフォーマンスの悪いチームになってしまうと思います。
重労働だった罹災証明書の受付業務
罹災証明書の受付業務は結構重労働で、僕が経験したときは、大きく、①受付の窓口で申請を受ける係と②住民を順番に案内する係に分かれていました。
まず、①受付の窓口で申請を受ける係ですが、一日中ひっきりなしに訪れる申請者の対応をする必要があります。
昼食を食べる30分間くらい休憩を取りますが、それ以外の時間はずっと申請者からヒアリングしていました。
次に②の案内係です。これも1日中来訪者の案内をするので重労働です。
2~3人の職員でとても多くに来訪者を案内しなければならなかったので大変でした。1人で10人以上も相手をしないといけないような状況にもなりますし、上手く人を整理できる能力が求められました。
加えて、来訪者から質問をされるので、案内役とは言いつつも罹災証明書についてある程度の知識を持っておく必要がありました。最初は質問されたらその場で調べて、派遣先自治体の職員に確認したのち回答するということをやっていましたが、数日経ってからは各々がこれまでに回答した内容を持ち寄ってFAQ(よくある質問)を作り、それを共有するということをしていました。
このようにとても大変な業務でしたが、被災した住民の方々のことを思うと我々が弱音なんて吐いてられませんからね。被災者の方々のほうが遥かに大変ですし。
一緒に派遣されたメンバーでお互いに励ましあいながら、被災地のためにがんばろうぜ!を合言葉に疲れていても士気を高めつつ頑張りました。
災害への備えがないと現場は大混乱するということを認識
東日本大震災のときは僕は災害発生から約1ヶ月後に現地入りしました。一方で熊本地震のときは1週間後でした。
先ほども言いましたが、東日本大震災のとき、自分が支援で入った現場は思っていた以上に落ち着いていました。
一方で、熊本地震のときの現場は本当に大混乱していました。
災害が発生した直後だと現場はこんなにも混乱しているんだ、ということをすごく学びました。これは東日本大震災での派遣では気づかなったことです。
一方で、東日本大震災での派遣の際の経験があったからこそ、熊本地震の派遣の際に混乱した状況でもなんとか対応できたのだと思います。
両災害での派遣を通じて、自分の自治体が被災したときに混乱せずに速やかに業務をまわせるようになるにはどうしたら良いだろうか?と真剣に考えるようになりました。
被災自治体に派遣されて痛感した「受援計画と業務継続計画の大切さ」
災害時に応援を受ける際、その支援を上手く生かすための受援の体制・仕組みをしっかり整備しておくことが必要だと感じました。
これは特に熊本地震の災害派遣の際に強く感じたことです。
熊本地震の派遣で実感した受援体制の大切さ
熊本地震の派遣は災害発生から1週間後という時期での派遣だったからでしょう。ある程度期間が経てば混乱が収まってくるのでしょうが、やはり備えがないと災害発生からしばらくの間は混乱が続くのだと感じました。
僕が派遣された町には「受援計画」は策定されていないようでした。
ひょっとすると策定されていたのかもしれませんが、もしそうだとすれば全く機能していない状態だったと思います。
被災自治体側に
現場の指揮をできる職員がいない、応援職員の適切な人員配置を考えられる職員がいない、応援職員に具体的な指示が出せない(出す人がいない)
こういった状況では応援職員も十分な支援ができない。
このことを本当に実感しました。
応援職員だけでできることには限界がある
応援職員側に能力・ノウハウがあれば、ある程度は対応できます。
被災自治体の職員の指示を待たずに、その場で必要な業務を洗い出し、使えるリソースを配置しつつ、状況・状況で臨機応変に対応する。
仕事がデキる職員ならこのくらいは可能でしょう。
しかし、それにも限界があります。
そもそもとして、どれだけの人的リソースを使えるのかが応援職員ではわかりません。
被災自治体側の通常業務や人員配置はわかりませんし、応援職員も様々な自治体から派遣されていますから、誰がどの期間応援業務に従事できるかがわからないですからね。
これではやはり、きちんとやれば本来発揮できるはずのアウトプットが十分に出せません。
ですから、災害時に他自治体からの支援を上手に活用するためには、しっかりと受援計画を整備しておく必要があります。
さらに言うと、その受援計画は災害時にしっかりと機能するものでなければなりません。
業務継続計画(BCP)があってこその受援計画
被災したときは当然ながら災害に関連する業務に大きく人的リソースを割くことになりますが、災害時でも止められない通常業務は山のようにあります。
災害時、これらの業務を混乱せずしっかりと継続させることができないと、そこにも余計にリソースを割く必要が生じるため、受援計画が当初の計画どおりには機能しない恐れがあります。
つまるところ、しっかりとした業務継続計画(BCP)がないと受援計画は絵に描いた餅になりかねないということです。
被災自治体への派遣を経験すべきと考える理由
冒頭でも申し上げたとおり、地方公務員として被災自治体への派遣は経験すべきだと僕は思います。
その理由は、被災地の力になると同時に、あなたやあなたが働く自治体にとってもメリットがあるからです。
具体的なメリットは以下で詳しく述べます。
自身が働く自治体が被災したときにそのときの経験が活きる
災害が発生したときに求められる対応は、それが初めてだと戸惑うものです。そして、今後初めてそれを経験するという地方公務員が大勢います。これをお読みのあなたもその一人である可能性は高いと思います。
僕自身は自分が公務員の間に大災害にあったことはありません。しかし、東日本大震災での派遣の経験が熊本地震の派遣のときに活きたということは実体験として感じました。
少し説得力がないかもしれませんが、その経験から僕は、自分の自治体が被災したときに派遣の経験があるかないかで適応力が全然違ってくると思いました。
被災地での業務はやはり経験しなければその独特の困難さがわからないものです。
平常時では経験できないようなことを経験できる
災害時は通常経験し得ない業務が多くあります。
これらの業務が必要になる場面が来ないに越したことはありませんが、災害はいつ起こるかわかりません。明日発生する可能性すらあります。ですので、そういった業務はもし経験できる機会があるのであればぜひ経験しておくべきです。
また、被災地での業務は通常の公務員の仕事の進め方とはかなり異なります。
単純なルーティンではないですし、指揮系統も変則的になります。通常業務であってもいつもとは違う進め方になったりします。
実践の場においてこれらを経験できるのは自分が働く自治体が被災したときを除いては、被災自治体に派遣されたときしかありません。
つまり被災地支援の派遣は、平常時では経験できないようなことを経験できる貴重な機会なのです。
人脈が広がる
被災地支援で被災自治体に派遣されると人脈が広がります。
被災地に派遣されると、一緒に派遣された職員や被災自治体の職員、ほかにも国や他自治体から派遣されている職員、NPO団体の方など様々な人と一緒に仕事をすることになります。
ですので、こういった方々との人脈が広がります。
特に一緒に派遣されたメンバーとは寝食も共にする機会が多いと思いますので、かなり親しくなることでしょう。
このときにできた縁は、派遣が終わって通常の業務に戻ってからもとても力になると思います。
人脈の重要性についてはこちらでまとめていますので、時間があれば読んでみてくださいね。
まとめ
被災自治体への派遣を経験すべきというお話をしてきました。
いかがだったでしょうか。
この記事を読まれたあなたがもし被災自治体への派遣に興味を持たれたとしたらとても嬉しいです。
とはいえ、災害は起こらないに越したことはありません。しかしながら、どこでも起こる可能性があるということも事実です。
そのことを踏まえた上で災害にいかに備えるかが重要です。
災害時にスムーズに行動できる職員が一人でも多くいることが迅速な復旧・復興につながります。
最後になりますが、ここまでお読みいただいたあなたにお伝えしたいことがあります。
もし災害が起きて支援を必要としている自治体が現れたときは積極的に参加しましょう!
あなたの力が必ずや被災地のためになります。本当です。
そしてそれは被災地のためだけではなく、きっとあなた自身にためにもなることでしょう。