事務系の公務員であればあらゆる仕事で関わることになる調査・照会業務。
調査や照会に対して自分が回答する側になる場合も多々ありますし、逆にこちらが調査や照会をかける側になる場合、また、時には自分が受けた調査・照会の回答を作成するために自分が調査・照会をかける場合もあると思います。
この調査・照会ですが、回答を作成する側よりも、調査や照会をかける側のほうが難易度が高いです。
実際に私も、同僚や後輩が調査・照会業務を行うのに苦労している姿を何度も見てきました。特に、新規採用職員や若手職員、これまでたまたま容易な調査・照会しか経験してこなかった職員なんかが苦労していたように感じます。
そこで今回はそんな方のために、私が調査・照会の上手いかけ方をお教えしたいと思います。
調査・照会業務とは
事業の実施有無の判断や効果の測定のために調査や照会を行う業務のことです。
統計調査のように国民(住民)に対して行うものもありますが、本記事では自治体から自治体もしくは自治体内の部署から部署への調査(照会)をその対象としています。
調査・照会業務はあらゆる分野で行われており、事務系公務員の基本業務と言えるでしょう。
担当している事業の参考にするために自発的に行う場合もあれば、国や他自治体からの照会に対する回答を作成するために取りまとめ部署として自治体内の関係部署に照会をかける場合など色々なケースで調査・照会業務は発生します。
私が考える良くない調査・照会
良くない調査・照会とはどのようなものでしょうか。
私は以下のように考えています。人によって基準は多少異なるでしょうが、概ね共感いただけると思います。
①回答者が理解しづらい
「この場合ってどう回答したらいいんだろう?」
「この質問の意味が分からない」
調査・照会を受けて回答を作成するときにこんなことを感じたことはありませんか?
回答者が理解しづらい調査(照会)内容だと、回答を作成する側は困惑するし、問い合わせも増えるため、かなり非効率です。
調査(照会)に添えられた文書をしっかり読めば、きちんと理解できるような調査・照会にするべきです。
②回答作成に手間がかかる
調査・照会は、調査(照会)する側の都合で、回答者に本来なかったはずの業務を発生させていると言えます。
それなのに、回答作成に多大な手間を要するとなると、税金で働く職員の人件費としていかがなものでしょうか。
複雑な調査(照会)であれば手間がかかるのは仕方ありません。しかし、調査票の作りが悪かったり、本来不要な部分まで回答させていたりする場合、それは厳しい言い方をすれば税金の無駄遣いと言わざるを得ません。
そのため、極力手間をかけずに回答を作成できる調査にするべきでしょう。
③集計に時間がかかる
調査・照会を行うということは、その背景には目的があります。担当している事業の実施の方向性を決定するためであったり、事業の妥当性を判断するためであったりと様々ですが、いずれの場合も最終的には調査(照会)結果をまとめて判断材料にすることでしょう。
ということは、調査(照会)をかけたら終わりではなく、回答が返ってきてからの集計作業が必ず発生します。そのため、この集計作業に時間がかかっていては勿体ないです。
集計作業を如何に効率よく行うかまで考えて調査(照会)をかけるべきです。
④調査(照会)の結果、必要な内容が得られない(調査項目の不足)
これも何度も見ました。折角調査(照会)したのに、肝心な情報が足りずに追加で調査(照会)を実施することになるパターンですね。
調査(照会)する側も回答する側もどちらも本来かからないはずの手間が生じますので経済的ではありません。
そして何よりダサいです。
可能な限り調査(照会)は一発で完了させたいところです。
上手に調査・照会をかけるためのポイント
それでは、実際に私が調査・照会業務を行っていたときの方法も含め、上手に調査・照会をかけるためのポイントを説明していきたいと思います。
1.調査票は集計作業のことを考えて作成する
調査票は、集計作業を如何に効率的に行えるかを意識して作成しましょう。
また、回答結果をまとめた回答一覧表(集計表)のひな型(回答内容だけが埋まっていない一覧表)をまず作成して、それを埋めるためにはどのような調査票にしたらよいか?という視点で調査票を作っていくのが正確性(特に「抜け漏れを無くす」)という観点からは良いと思います。
以下、具体的に解説します。
表記ゆれを減らすために回答欄は可能な限り選択式にする
回答欄は可能な限り選択式にして候補から選ばせるようにするべきです。
なぜなら、そうしておかないと表記ゆれが発生して集計作業に支障が出てしまうからです。
一つ例を出して説明します。
次のような調査項目があったとします。
貴自治体(部署)では、○○事業をいつから行っていますか?
このとき、回答が選択式ではなかったとします。そうすると回答は次のようなパターンが考えられます。
- パターンA)昨年度から
- パターンB)前年度から
- パターンC)平成30年度から
これらの回答は、すると、パターンAもBもCも同じ回答内容(調査時点を平成31年度現在とします)のはずですが、表記上は別になってしまっています。こうなると集計時に人の判断(AとBとCが同一の回答かどうか)が必要になり、その上、それらの表記を揃える手間が増えます。
自由に回答を記入させると上記の例のように表記ゆれが発生してしまいますが、次のように回答の選択肢を用意しておけば表記ゆれはかなり減らせます。
- ア)平成31年度から
- イ)平成30年度から
- ウ)平成29年度から
- エ)平成28年度以前から
- オ)平成32年度からの予定
- カ)未定
- キ)実施しない
- ク)その他(別途自由記述欄を用意)
なお、この場合も選択肢は記入させるのではなく、候補から選ばせるようにすべきです。例えば、「ア」という回答にも、「ア」(全角)や「ア」(半角)、「あ」(ひらなが)といったパターンが考えられますので、これらの表記ゆれが生じ得ます。
ですので、用意した選択肢も回答者に入力(記入)させるのではなく、候補から選ばせるようにすべきです。そのためには、後述しますが、Excelのプルダウンメニュー(ドロップダウンリスト)が大変便利です。
調査票はExcelで作成する
特殊な事情がない限り、調査票はExcelで作成するのをオススメします。理由は次の2点です。
- Excelだとプルダウンメニュー(ドロップダウンリスト)で簡単に選択肢を用意できるため
- 集計作業はExcelで行うことが多いため
一つ目の理由については先ほども少し触れました。表記ゆれ防止のために回答を選択式にするには、Excelのプルダウンメニュー(ドロップダウンリスト)を使うのが最も簡単だからという理由です。特に難しいスキルは必要なく比較的単純な操作で選択肢を用意できますので、一度も使ったことがないという方でも結構簡単に使えると思うので是非試してみてください。やり方はgoogleで検索すれば解説してくれているサイトがいくつも見つかると思いますよ。
続いて、二つ目の理由についてです。
調査・照会はほぼすべてのケースで複数の相手に対して実施します。そのため、複数の回答を一覧表にまとめた上で、その集計結果を踏まえた報告書等を作成することになるはずです。
となれば、この集計作業はExcelで行うはずです。Excelが世の中で最も集計作業に適しているかと言うと「No」ですが、役所で使えるツールに限れば「Yes」でしょう。Excel以外のツールで集計するのは非効率としか言いようがありません。
後工程をExcelで行うのであれば、当然、回答もExcelデータで提出してもらうのが最も効率が良いですよね。そのためには、調査票をExcelで作成する必要があります。
調査票には集計用のシートを用意しておく
また、調査票には「回答用のシート」とは別に「集計用のシート」を用意しておくと集計時に大変便利です。
「集計用のシート」は集計時に一覧表にコピー&ペーストするためだけに使います。つまり、このシートを扱うのは調査・照会する側だけであり、回答作成者が触ることのないシートになります。
ですので、このシートは見栄えを気にする必要はありませんし、なんならシート自体を非表示にしてしまっても良いと思います。
2.回答しやすい調査票にする
集計しやすい調査票にすることの重要性について説明しましたが、これはあくまでも調査・照会をする側にとっての都合です。
調査・照会を受ける側が回答しやすい調査票にすることも重要です。
調査・照会はあくまでも調査・照会をかける側の都合で実施するものです。調査(照会)によって相手の時間を奪っているという考えを持つ必要があります。
また、多数を相手にすることが多いので、回答しやすい調査票を作るのに多少時間がかかっても、その分回答作成の時間が短縮できさえすれば、それが複数の回答者に影響し効率的と言えます。
不要な回答は作成しなくてもいいようにする
調査・照会の内容によっては、その調査(照会)自体に答えようがない回答者がいる場合もあります。
例えば、次のような項目を照会するとします。
- 質問1)A事業の実施部署(係)はどこですか?
- 質問2)A事業の直近3か年の予算額と決算額はいくらですか?
- 質問3)A事業の課題について教えてください。
このとき、あなたの自治体ではA事業をやっていなかったどうでしょう?
質問1~3まですべて回答しようがないですよね。
ですので、こういう場合は、最初にA事業の実施有無について回答させるようにしたほうが良いでしょう。
- 質問1)あなたの自治体ではA事業を実施していますか?
- 質問2)A事業の実施部署(係)はどこですか?
- 質問3)A事業の直近3か年の予算額と決算額はいくらですか?
- 質問4)A事業の課題について教えてください。
その上で、A事業を実施していない場合は、質問1で終了とするのがスマートです。
ちなみに私だったら、この際、A事業を実施していない場合にはついでにA事業の実施予定についても確認しておきます。
こんな感じになります。
こうすれば、A事業を実施していない回答者は設問1及び設問1-2で終了し、設問2~4については回答する必要がなくなります。この例だと設問数が多いわけではありませんが、実際の調査・照会ではもっと数が多いはずですので、質問1のような配慮は必須と言えるでしょう。
記入(回答)例は必須
記入(回答)例は必ず用意するようにしましょう。
作り手からすると簡単だと思っていてもそれは思い込みである可能性があります。必ず記入(回答)例を用意して、受け手が回答しやすい調査票を心掛けましょう。
ちなみに、記入(回答)例を作るときは、こういう場合は回答に困るだろうなと思うようなケースを想定して作成するのが効果的でしょう。複雑かつそのような回答が複数パターンあり得る場合は、記入(回答)例を複数パターン用意するのも効果的です。
調査の詳細や回答の仕方は記入(回答)要領として別紙にする
かがみ文(自治体によって言い方が異なるかもしれませんが、一番オモテに添える、宛て名や発信者が書かれた文書のことです)にはあまり細かい事は書かないようにしましょう。
詳しい内容や回答の仕方、用語の定義などは、かがみ文に書くのではなく、記入(回答)要領として別紙にしたほうが回答者はわかりやすいです。
国が実施している統計調査なんかもそのようになっていますよね。
記入(回答)要領はきちんと書けば書くだけ分量が増しますので、可能な限り図や表を使ったり、重要や箇所には下線を引いたり太字にしたりして、読みやすさを重視するのが大事です。
記入要領の例はインターネットでも簡単に手に入ります。googleで「記入要領」と検索すると国の調査の要領が色々と出てきますので、参考にしてみてください。
記入要領の重要な部分は調査票にも書く
記入要領は、普通に作成するとそれなりの分量になります。調査・照会を受け手が全員きちんと読んでくれれば良いですが、中にはきちんと読んでくれない人も一定数存在します。
そのため、記入要領の中で本当に重要な部分は抜粋や要約して調査票にも書いたほうが絶対良いです。
私の場合は、調査票の下部に枠囲みして書いていました。
こんな感じですね。
調査票そのものに記入要領の重要な部分を書くことで回答者がそれを読むという効果があるわけですが、実はもう一つ効果があります。
それは、回答を作成する職員の上司(決裁権者)もそれを見る可能性が増えるという効果です。
役所では、基本的に調査・照会に回答する際にも上司の決裁を受ける場合が多いです。その決裁の際、確認する側である上司は余程細かい性格じゃない限り記入要領なんかは読みません。しかし、少なくとも回答自体は見るはずです。
上司が記入要領までは見なくても、回答自体の確認さえしてくれれば、そこで調査票に書かれた重要な記入要領が目に入る可能性があります。そこで誤り等を正してくれれば儲けものというわけです。
3.適切な回答期限を設定する
回答期限をいつに設定するかも重要です。相手に追加で業務を発生させるわけですから、あまりに短いのは失礼です。
相手の作業ボリュームとこちらのスケジュールを考慮する
私の場合は文書発出から大体2週間後を回答期限にしていました。特に問題がない場合は2週間、ボリュームが多い場合や回答者がさらに他部署にも確認しないといけないような場合はプラス1週間見て3週間にするといった感じです。
逆にこちらのスケジュールの都合がある場合はそこから逆算して考えます。
結果のまとめがX日までに欲しい場合
X-4日 未回答の調査(照会)先に回答提出の督促
X-2日 結果の集計・まとめの作業開始
X日 結果のまとめ完成
この場合、督促期間(2日)と結果集計・まとめ作業の期間(2日)を考慮して、X-4日を回答期限とします。
ただし、こうして設定した回答期限が2週間(ボリュームが多い場合は3週間)よりも短い場合は、回答期限が短いことに対する配慮が必要になります。
どうしても短い期限を設定する場合はメールの本文に申し訳ないという趣旨の文言を入れる
とはいえ、スケジュール上、どうしても短い期限を設定せざるを得ないケースもあると思います。そのような場合はメール本文に
- やむを得ない事情で短い期限を設定していること
- 忙しいのは承知しており申し訳ないと思っていること
を含めましょう。「短い期限を設定していて申し訳ない」ということが相手に伝わることが重要です。
また、非常に短い期限の場合はメールだけでなく電話までしたほうが良いでしょう。電話のほうが気持ちは伝わりますし、メールの確認漏れを防止するという目的もあります。
実際に私も電話までしたことは何度もあります。電話すると逆に「大変ですね」と労いの言葉を貰うこともあり、「公務員って優しい人が多いな」と思った記憶があります。
メールの件名にはわかりやすく回答期限を入れてあげる
今のご時世、調査・照会の文書はメールで発出すると思いますが、発出する際の電子メールの件名に回答期限を入れてあげると親切です。特に、期限が短い場合は、メールを見ただけですぐに着手すべき案件だとわかるため、必ずメール件名に回答期限を入れるようにしましょう。
メール件名:【回答期限:5/30(木)】○○について(照会)
私はこんな感じのメール件名にしていましたよ。
4.確実に今やるべき調査(照会)だけを実施する
今回実施しようとしている調査(照会)が本当に今やるべきものなのか、きちんと検討してから調査(照会)を実施すべきです。
現時点で回答できる調査(照会)項目か検証する
調査(照会)する側がその情報を今知りたいと思っても、回答する側は回答できなければ調査(照会)しても意味はありません。
例えば、担当している事業の予算要求のために他自治体の予算要求額を知りたいとします。これから、予算要求額を決めていくような時期に他自治体に予算要求額を照会しても、照会された側もまだ要求額は決まっていないので回答のしようがありません。
このように調査(照会)するタイミングは重要です。基本的に同じ調査(照会)を何度も実施するのはルール違反です。
現時点で回答できる内容がどうかをきちんと検証して、適切なタイミングで実施しましょう。
同じような調査・照会が直近でなされていないか確認する
これは必ずやってください。
もし同じような調査(照会)がなされてからそんなに経っていない場合は、その調査(照会)結果をもって今回の目的が達成できないか検討しましょう。
その調査(照会)を実施しているのが他団体(他部署)の場合でも、結果を共有してほしいとお願いすれば、ほとんどの場合共有してくれるはずです。
直近の調査(照会)結果では目的が達成できない場合は、そのときの調査(照会)内容を踏まえた調査(照会)にすべきです。
例えば、調査票に直近の調査(照会)結果を書いておき、回答内容に変更がある項目と追加で調査(照会)する項目だけ回答してもらうようにすると、回答する側の手間が格段に減ります。
5.調査(照会)に協力してくれた回答者には可能な限り結果を共有する
調査(照会)した結果は可能な限り、回答してくれた自治体(もしくは部署)にも共有しましょう。
特に他県調査のような他の自治体の状況を照会するようなものの場合は、結果の共有は必須です。共有しないと常識がないとすら思われる可能性があります。
また、内容によっては、共有してほしくない場合もありますので、調査(照会)項目として「回答結果の共有の可否」も含めておくと良いでしょう。
最後に
今回お教えしたポイントを押さえながら何度か調査(照会)を実施すれば、自分の中で調査・照会のパターンが確立されてくると思います。そうなると、調査(照会)のスピードも格段にアップしてお手の物になるでしょう。
最後に、私が調査・照会を行う場合の文書の構成を記しておきます。今回のポイントを押さえた内容になっているはずですので、参考にしてください。
- かがみ文
- 調査・照会の背景(目的)及び内容(簡潔に)
- 回答期限
- 提出方法及び提出先
- 記入(回答)要領
- 調査・照会の背景(目的)及び内容(詳しく)
- 回答期限
- 提出方法及び提出先
- 調査票の記入要領
- 調査票(回答記入用)
- 調査項目・回答欄(回答は可能な限り選択式)
- 記入要領の重要な部分の抜粋(要点)
- 記入(回答)例
- 参考文書
- 調査(照会)に関連する文書
- 関連する調査(照会)結果
最後までお読みいただきありがとうございました。