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【冷房】姫路市役所の夏季エアコン25℃設定について元・県庁職員が思うこと

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役所ってどこも暑いですよね。
僕が県庁で働いていたときも夏場は毎日汗だくで仕事をしていました。

一番嫌だったのは書類に字を書いているとき。
汗で書類が腕にくっつくので、かなり気持ち悪いんですよね。

そんな“役所クソ暑い問題”に関して、この夏とても興味取り組みを行っている自治体があります。

それは姫路市役所です。

なんと2019年夏の冷房の温度設定を25℃にするとのこと!

公務員の方なら絶対みんなビックリしますよね!

本記事ではこの“姫路市役所の夏季エアコン25℃設定”について、記者会見における清元秀泰市長の説明を読み解きながら、僕が感じたことを書いていきたいと思います。

2019年10月7日の市長記者会見で明らかにされた検証結果についても最後に追記しています

姫路市役所の夏季エアコン25℃設定とは?

姫路市の夏季エアコン25℃設定の取り組みをご存じない方もいらっしゃると思いますので、まずは姫路市の取り組みについてご説明しますね。

取り組み内容

姫路市の取り組みですが、2019年7月1日の記者会見で清元秀泰市長が次のように述べています。

現在、市役所本庁舎におきましては、適正冷房ということで、執務室内の温度を28度に設定しております。しかしながら、職務を行う環境としては少々暑すぎるのではないか、暑さのために職務能率が低下しているのではないか、と私の医療系の仲間、友人からも実際に色々な場で話し合うことがありまして、私自身も自分の研究室であったりとか以前の職場でも「28℃は本当に効率がいいのだろうか。」と疑問を感じておりました。

今春成立いたしました、働き方改革関連法ということもあって、「少しでも残業時間を減らしていきましょう。」とか国民の重要な政策・施策として国から出ているわけですけれども、執務室内の温度が仕事の効率に及ぼす影響について、酷暑が厳しくなる今月16日から8月30日までの間、市役所本庁舎の執務室内の温度を25度に設定して、職務能率がどのように変化するのかについて、姫路市役所の中ではございますが検証を行うこととしました。

令和元年7月1日姫路市長記者会見より引用

取り組み内容のポイントをまとめると以下のとおりです。

  • 姫路市役所が今夏のエアコン温度設定(市役所の本庁舎内に限る)を実験的に25℃に下げることになった。
  • 暑さのために職務能率が低下しているのではないかとの疑問から、働き方改革の一環として25℃設定にして、職務能率がどう変化するのかを検証する。
  • 夏が終わった9月に疲労度などを問うアンケートを実施する予定。アンケートの対象は本庁舎で働く職員。残業時間や電力使用量の増減も調べる。効果がないと判断した場合は28℃設定に戻すことも検討する。

このような取り組みは自治体として全国で初めてのことです。

僕も最初に聞いたときはびっくりしました。

きちんと国にも相談して了承を得ており、抜け目ない進め方ですね。

当日の記者会見では夏季エアコン25℃設定に関する記者からの質問もあり、取り組みの目的や効果の検証について詳しく述べられています。
興味のある方は国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)のサイトで閲覧できますで全文が見れますのでご覧ください。

令和元年7月1日姫路市長記者会見内容 – 国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)

ちなみに、姫路市の清元秀泰市長は医師資格を持っており、東北大学医学部教授を務めていた方です。

説明も専門性も踏まえつつ理路整然としており、すごく納得感があります。頭の良さが伝わってくる市長さんですね。

取り組みの狙い

姫路市の夏季エアコン25℃設定の取り組みの狙いについて考えてみたいと思います。


記者会見では、清元市長が根本教授の論文を引用して以下の点を説明しています。

  • 温度設定を3℃上げることによって15%の省エネとなる。およそ1平方メートルあたり72円の節電。
  • 一方で、作業効率で見ると、1平方メートルあたり13,000円の損失
  • 1日の就業時間を8時間として平均室温が25℃から28℃に上昇すると、作業効率が6%下がり残業が29分間増える

ちなみに、梶本教授とは大阪市立大学の教授で、清元秀泰市長と大学時代同じグループで実習していた仲とのこと。「ほんまでっかTV」といったテレビ番組にも出ているようです。

AKASHI
AKASHI
僕はあまりそのような番組を観ないので知りませんでした

話に戻しますが、つまるところ、エアコン設定温度を28度から25℃に下げることでその分の電気代は上がるが、逆に業務効率は上がり、残業が減って人件費や電気代が減少するのではないかということです。

清元市長は具体的に

記者:
 今回、3℃下げることによる電気のプラス料金はどれくらいか。

市長:
 試算はないが若干増えると思う。過去の論文から言えば、省エネとしては1平方メートルあたり72円あがる形になるが、何千万円になるということは絶対ありえない。一方、温度が上がると1平方メートルあたり13,000円の損失が生じると。ということは、温度下げたら、13,000円の生産性があがるのかどうか分からないが、希望的観測で、数十万円の投資で数百万円以上のメリットがあるんじゃないかと考えている。具体的にはやってみないとわからない。

令和元年7月1日姫路市長記者会見より引用

と希望的観測としてメリットがあるのではないかとの仮説を立てています。

そのうえで

記者:
 残業時間がどの程度減少したら成果があったと言えるか。

市長:
 29分残業が減ったら論文どおりということになりますね。成功か失敗かはかかる電気代にもよると思う。また湿度と温度の兼ね合いにもよるので、一概には言えないと思う。働き方改革をやることによってもう少し少子化対策にもつながるのなら、ぜひそっちの方にいきたい。ですからかかる費用と残業代金を時間比較するのは難しいけれども、もしエネルギー消費量がそれほど上がったわけでもないのに、残業代が減ったら、それは大成功だと。9月の時点で職員アンケートをとって、最終的には電力使用量や残業時間を兼ねて解析したいと。その解析にあたっては第三者的に梶本さんに相談したりと、科学的な見地で評価があってもいいかなと思う。

令和元年7月1日姫路市長記者会見より引用

効果を検証すると言っています。

すなわち、

  • 設定温度を28℃から25℃に下げることによって電気代が増加するが、それ以上に残業代が減ってトータルでコスト削減のほうが大きいのではないかと考えている
  • 実際に本庁舎で設定温度を25℃にしてみて結果をきちんと検証する
  • 結果が悪い場合は夏季25℃設定をやめることも検討する

ということです。

つまり

これまで全自治体が不満がありながらも当たり前にやってきたこと(すなわち夏季のエアコン28℃設定)に対して、市として異なる仮説を立てて実際にそれを検証する

というのが姫路市の狙いだと言えます。

28度設定は暑すぎる?

個人的意見としては28℃設定は仕事をする環境としては暑すぎると思っていますが、姫路市の説明も踏まえつつ考えてみたいと思います。

28℃設定でも室温は28℃を超えているケースが多い

今回の本題とは少しずれますが、エアコン28℃設定の悪い点として、環境によっては28℃まで冷えないことがあるという点が挙げられます。

空調そのものが能力不足であるケースや、人の密度が高い場合、パソコンなどの機器が多い場合なんかに28℃を超えた室温になることがあります。

僕が勤務していた県庁でも28℃設定にも関わらず、デスクに置いてある温度計は大体30~31℃くらいを指していました。

このような環境では当然作業効率は落ちます。
自分でも頭がぼーっとしていることがわかるくらいに頭がまわらなくなり、まったくもって仕事に集中できなくなっていました

加えて、30℃という室温では体調も悪くなります。残業続きで疲れているときなんて気分が悪くなるほどでした。

室温がきちんと28℃になっていても仕事中は暑い

では室温がきちんと28℃に保たれている場合はどうでしょうか。

姫路市の清元秀泰市長は記者会見で次のように述べています。

クールビズの取り組みをしてもやはり28℃はきつい。特に温度だけではなく、湿度も大事。実は湿度が50%以下の場合は、温度が多少高くなっても平気だが、日本のように高温多湿では、湿度が60%以上になってくると28℃ではしんどい。梶本教授の講演を聞いたら、人間というのはセットポイントセオリーというものがあって、常に一定の心拍であったり呼吸であったり体温を維持する、そのために周りからの温度変化が厳しければ厳しいほど中枢の方で色々と操作する必要があり、汗かいたり血管広げたり、というのに疲れてしまうから仕事に集中できない。

令和元年7月1日姫路市長記者会見より引用

これはまったくそのとおりだと僕も思います。

温度計が28℃を指している室内ではやはり少々暑いと感じます。

ぼーっとしていたり、好きなことをやっているのであれば別に構わないのですが、仕事をするとなるとデスクワークでもかなりしんどいです。

打合せなんかで自分が喋る頻度が多いと確実に汗をかきますし。

それほど暑がりではない僕がそう感じるので、周囲の多くも暑いと感じていると思います。

25℃設定だと中には寒いと感じる職員もいるが…

もちろん、なかには25℃設定だと「寒い」と感じる職員もいます。

基本的に少数派でしょうが、そういう職員のことを考えると下げていいのか?という疑問もあるかと思います。

しかしながら、これについては全体最適で考えれば設定温度は下げるべきだと僕は思っています。

というのも、寒い場合は一枚羽織ったり膝掛けを使ったりすればその程度の寒さはしのぐことができるからです。逆に暑いからと言ってそれ以上服を脱ぐことはできないですからね。

AKASHI
AKASHI
決して、少数派が我慢しろ!というわけではありません

姫路市の取り組みはとても素晴らしいと思う

今回の姫路市の取り組みはすごく良いことだと思っています。

そう思う理由として、僕自身も暑いと感じていたし、僕と同じように考える公務員が多数だからというのもありますが、それだけではありません。

多くの公務員がそう思いながらも「どうせ無理だろう」と諦めて行動に移さなかったことを首長が堂々と市民に説明して行動に移した点、これが今回の取り組みが良いと思う一番の理由です。

しかも、国ともきちんと調整しており、取り組みの理由も専門的見地を踏まえたもので、市民も概ね納得できる内容であることも評価できる点です。

そもそも、“やってみないとわからないから実際にやってみる”という試みは自治体だとなかなかできません。結果が良くなかった場合、そういうリスクがあると事前に公表していても結果的に批判にさらされることが多いからです。

そんな“やってみないとわからないから実際にやってみる”に挑戦しているのが、今回の姫路市の夏季25℃設定の取り組みだと僕は思っています。変わり者の首長がパフォーマンスのようにやる例は過去にもありましたが、今回のようにしっかりと地に足をつけて自治体らしく行動に移すことは本当に珍しいケースではないでしょうか。

そういう観点からこの姫路市の夏季25℃設定は自治体にとって非常に意味のあることだと僕は思っています。

検証結果次第ではこの取り組みが広がりを見せるかもしれない

僕は、この姫路市の25℃設定の取り組みの検証結果は姫路市だけの結果にとどまらず、“日本における適切なエアコン設定温度”というものすら変えてしまう可能性を秘めていると思います。

少々言い過ぎだと思うかもしれませんが、そのように思う理由があります。

仮にとても良い結果だった場合、翌年の夏から同じことを実践する自治体は出てくるでしょうし、民間企業などにも広がりを見せる可能性もあります

記者:
 良い結果が出た場合、市内の民間企業への呼びかけも考えておられるのか。

市長:
 結果を示したうえで、単なるエネルギー総量だけではなく、ピーク時電力にもそれほど影響を与えないということであれば、商工会議所であったり、地域でも考えて見られてはどうですかという提案はしてもいいかなと思う。姫路の全体の生産性を上げることに繋がるという判断があれば、積極的に働きかけはあるかもしれない。

記者:
 民間の企業のみならず、結果よければ市立の小学校や施設で導入されるというお考えは。

市長:
 教育効率に繋がることであれば。やはり学校本来は学び舎で、今年度エアコンを導入して来年度末には終わるから、フィードバックするのは当然だと思っている。特に病院などにも積極的にデータとして渡していきたいと思っている。職種、目的別なので、一つの側面かなと思う。

令和元年7月1日姫路市長記者会見より引用

このように、清元市長も病院や民間企業にも検証結果をフィードバックすると言っていますからね。

この辺のことを踏まえて考えると、「28℃設定は見直そうぜ!」という全国的な議論が起こっても何らおかしくありません

(追記)2019年の10月7日に検証結果が公表

2019年10月7日の市長記者会見にて検証結果が公表されました。
なお、検証にあたっては、職員アンケートを実施するとともに電気・ガス使用量や時間外勤務時間数の比較を行ったとのことでした。

のべ17,000時間超の残業時間減

注目の時間外勤務時間については、前年と比べ、のべ17,000時間超の残業時間を減らすことができた模様。

疲労感軽減と業務効率効果

職員アンケートの結果は次のとおり

  • 25度の室温設定が「ちょうどよかった」が79%
  • 勤務後の疲労感が「かなり軽減された」、「少し軽減された」が83%
  • 業務効率が「とても向上した」、「少し向上した」が85%
  • 就業意欲が「かなり高まった」、「やや高まった」が83%

職員の反応はほとんどが良かったことがわかりますね。

光熱費が7万円上昇

市長記者会見によると、電気使用量は若干減少したものの、ガス使用量が若干増加。
結果として光熱費トータルで約7万円増加したとのこと。

(所感)もっとしっかりした検証が必要だけど正直驚いた

正直な感想ですが、17,000時間超の残業時間が減ったというのはびっくりしました。ここまで減るのかと
時間勤務時間数の削減だけで、人件費4,000万円以上の節約ですからね。
光熱費の7万円増加なんて関係ないくらいすごい削減額です。

市長:
7月に始めるといった時に、厚生労働省が28度から熱中症の危険の注意喚起をするが、作業労働環境が28度はおかしいんじゃないかということから端を発しているので、私自身は温度の変化が激しいことの方がしんどいのではないかと思うので、電気とガスについてもそれほど光熱費が上がらなかったのは驚きだったが、役所全体として7万円しか変わらなかった。逆に17,000時間残業が減ったということは、4,000万円以上の節約になった。経済効率は非常に高いと。

令和元年10月7日姫路市長記者会見より引用

ただ、会見の中で記者からも質問されていましたが、2点気になる点がありました。

一つは、1人当たりで何時間削減されたのかが明らかにされていないこと。
17,000時間というボリュームはすごいですが、時間外勤務をした職員一人当たりの場合の時間数がわかればもっと意味のある数字になりそうです。

二つ目は、前年との比較しかされていないこと。
記者からも指摘されていたとおり、昨年は豪雨・台風対応で例年よりも残業が多かったようです。
ということはイレギュラーで時間数が多かった昨年が平常に戻っただけの可能性もありますよね。
なので昨年以外の年とも比較しなければ、正しい評価はできないと思いました。

記者:
 昨年は豪雨・台風対応で残業が多くなったということだが、一昨年や過去5年、10年という比較はされているか。

職員部長:
 していない。

市長:
 できればした方がいいと思う。ついこの前に締めて、皆さんには速報値ということで集計した。せめて光熱費と残業時間くらいは振り返って調べられるので、来年度予算を立てる段階ではこうしたことを踏まえたうえで考えていかねばならないと。科学的な検証という意味で。2年前、3年前、4年前過去を遡れるだけ調べていく。まあ、今日のところはこの速報値でお許しいただきたいと。

令和元年10月7日姫路市長記者会見より引用

つぎに職員アンケートの結果。
これは概ね想像どおりですね。
しかし、25度の室温が寒いと感じる人は「やや寒かった」が11%、「とても寒かった」が3%で合わせて14%だったようで、これは思っていたよりも低い数字でした。
寒いと感じる人がもっといるだろうと思っていましたね。

光熱費は7万円上昇したとのことですが、私はもっと上昇すると思っていました。
残業時間が減ったことで光熱費を使う時間が減り、結果として上昇が7万円に抑えられたのかもしれませんね。
とはいえ、光熱費の内訳がわからないので、正確なところはわかりません。
いずれにせよ、こちらも前年だけでなく別の年とも比較が必要でしょう。

市長によると、今回の検証結果は速報値ということらしく、さらに詳しく検証していくようなので、楽しみに見守りたいと思います。

<2022.11.10追記>
その後の検証結果を探してみましたが、僕が探した限り見つけることができませんでした。
国にどう説明したのかという点や2020年以降の実績も気になるので、続報が欲しいところです。

記者会見内容は過去2年分しか掲載されていないため、姫路市のHPからは既に削除されています。
こちらの国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)のサイトで閲覧できますので、確認されたい方は下のリンクから閲覧ください。

令和元年10月7日姫路市長記者会見内容 – 国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)

ABOUT ME
AKASHI
頑張る公務員の味方! 関東在住の30代。某県庁で10年ほど勤務した元公務員です。 財政課、市町村課、生活保護ケースワーカー、個人情報保護担当部署を経験。 詳細プロフィールはコチラ