本記事ではマイナンバー制度の情報連携について解説しています。
主に、役所で働く公務員の方を対象にして書いたものです。生活保護など情報連携を行う自治体業務に携わる方々の参考になれば幸いです。
僕自身、直接マイナンバー制度の担当はしたことはありません。しかし、マイナンバーと密接に関係する個人情報保護を担当した際にマイナンバー制度の担当者から詳しくレクチャーしてもらいましたので、そのときに得た知識をもとにこの記事をまとめました。
なお、理解のしやすさを優先して書いているため、制度の細かい部分や例外は割愛しています。正確な情報は法令等をご確認ください。
マイナンバー制度の情報連携とは
マイナンバー制度の情報連携とは、マイナンバーをキーにして情報をやり取りするものです。
例えば、B市の手続きにおいてA市が保有しているXさんの課税情報が欲しいときに、「このマイナンバーの人の課税情報をください」とB市がA市に依頼すると、A市が要求された課税情報をB市に提供する、というものです。
マイナンバーは一人1個しかないので、マイナンバーだけで個人を特定してやり取りができることになります。実はこの「一人に1個しかない」というのがマイナンバーにしかない特長なのです。
もし、マイナンバーがないと、基本4情報と呼ばれる「住民基本台帳に記録されている個人についての基本的な情報」つまり氏名・性別・住所・生年月日をもって個人を特定する必要があるわけですが、マイナンバーがあればそれだけで個人を特定してやり取りができるということになります。
なお、この時にやり取りされる情報は「特定個人情報」と呼ばれます。
「特定個人情報」とはマイナンバーを含む個人情報のことです。「特定個人情報」についてはこちらに整理していますので気になる方はお読みください。
情報連携はいつから始まったのか?
マイナンバー制度の情報連携は平成29年(2017年)11月13日から開始されました。
厳密には7月から試行運用という形で開始されており、上記の11月13日は本格運用が開始された日となります。
いずれにせよ運用が開始されてからまだそんなに経っていないのでまだまだ課題は多いです。
なお、当時、国(総務省?内閣府?)が引いた無理なスケジュールのために、全国の自治体のマイナンバー所管部署と福祉部署、加えて厚生労働省のマイナンバー関連部署が死にそうになりながら準備を行う状況に陥りました。
彼ら彼女らの努力のおかげでどうにか情報連携が開始されたという現実があります。当時、大変な苦労をした公務員あってこその仕組みなのだということを情報連携を利用する方にはぜひ覚えておいてほしいです。
- マイナンバー制度における「情報連携」及び「マイナポータル」の本格運用等開始(H29.11.2 総務省・内閣府 報道資料) - 総務省ホームページ
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kanbo07_02000001.html
情報連携のメリットは?
前述のとおりマイナンバー制度の情報連携があるとマイナンバーを使って情報を取得できるようになります。したがって、情報連携を行う手続きの場合、住民に提出してもらっていた添付書類(住民票や証明書など)が不要になります。
例えば、A市に住む人が年金事務所に国民年金保険料の免除申請をしに行く場合、手続き上、課税証明書が必要だったとします。
この場合、年金事務所に行く前にA市役所に行って課税証明書を取りに行く必要が生じます。つまり、この住民はまずA市役所に行き、そして今度は年金事務所に行くという少々面倒くさいことをしなければならないわけですね。
マイナンバーの情報連携ができると住民はこの面倒から解放されます。
年金事務所に行った際にマイナンバーを提出すれば、課税証明書の情報は年金事務所がA市から情報連携で取得してくれるので、住民はわざわざA市役所に行く必要がなくなる、というわけです。
マイナンバーの情報連携は住民にとってこのようなメリットがあるわけです。
※実際には、マイナンバーを証明するもの(通知カードやマイナンバーカード等)が必要だったり地方税関係の情報連携の場合は同意書が必要(これは後ほど説明します)だったりするので、メリットだけではないということも補足しておきます。
このほか、役所側の事務の効率化という点も情報連携のメリットとして挙げられています。マイナンバーを使って情報を取得できるので事務が効率化できるということですね。公用請求が多い業務ほど効率化になるのではないでしょうか。
しかしながら、中にはマイナンバーの情報連携を利用する際の決まりが厳格過ぎるために、逆に事務が煩雑になっている事務もあります。そのため、役所側の事務の効率化という点では現状はそれほど効果を発揮していないと僕は考えています。
情報連携では誰と誰がやり取りをするのか?
例外はありますが、基本的には役所や国の機関が情報連携を行います。住民が自ら情報連携を行うことや民間企業が行うことは基本的にはないと考えてよいでしょう。
主に次のような間でやり取りが行われます。
- 地方自治体 ⇔ 地方自治体
- 地方自治体 ⇔ 国の行政機関
- 国の行政機関 ⇔ 国の行政機関
- 地方自治体、国の行政機関 ⇔ 医療保険者
地方自治体間の情報連携は、例えば児童扶養手当の手続きにおいてC市役所が手続きをする際にB市(転居前の住所)から課税情報を取得する場合などが考えられますね。
ちなみに、地方自治体間の情報連携は同一団体同士での情報連携も含まれます。同じA市の中で生活保護課と児童福祉課が情報連携することもありますし、同じB県の中で生活保護課と教育委員会が情報連携することもありますよ。
地方自治体と国の行政機関の例でいくと、先ほどの年金機構とA市の例がそうですね。
先ほどの生活保護課と児童福祉課との間でのやり取りは同じ首長部局間でのやり取りなので、情報連携ではありません。正確には「庁内連携」と呼ばれるものでして、各自治体がマイナンバー条例で規定しているはずです。
一方で、生活保護課と教育委員会でのやり取りは、同じ自治体でも別機関(首長部局と教育委員会)なので情報連携にあたります。
この違いは覚えておくと良いでしょう。
すべての業務で情報連携できるの?
すべての業務で情報連携ができるわけではありません。
重要な個人情報をやり取りすることになるので、法律や条例で定める場面以外で利用することはできません。
ざっくり言うと、税・社会保障の分野になります。代表的なものを挙げると、生活保護、児童手当、地方税、公営住宅といった業務です。
具体的には
(ア)マイナンバー法第9条第1項及び同法別表第一と
(イ)自治体のマイナンバー条例(マイナンバー法第9条第2項の規定に基づく)
にマイナンバーを利用してよい事務が規定されています。これらの事務を「個人番号利用事務」と言います。
ちなみに、(ア)のことを法定事務、(イ)のことを独自利用事務と呼びます。
例えば、日本人に対する生活保護の事務は(ア)法定事務ですが、外国人に対する生活保護の事務は法律に基づく事務ではないため(イ)独自利用事務になります。
もう一つ例を挙げると、身体障害者手帳と精神保健福祉手帳に関する事務は(ア)法定事務ですが、療育手帳の事務は(イ)独自利用事務になります。
覚えておくとよいでしょう。
情報連携ができる業務についても「マイナンバー法(関係法令を含む)」や「自治体の条例(施行規則等を含む)」に事細かに記載されています。
しかし、これらの法令から読み解くのは最初のうちは困難だと思います。大まかな理解のためにはこちらの資料のほうが分かりやすいでしょう。
- マイナンバー制度の情報連携に伴い省略可能な主な書類の例 - 内閣府ホームページ
https://www.cao.go.jp/bangouseido/pdf/renkei01.pdf(PDF)
- マイナンバー法 第19条第7号
- マイナンバー法 別表第二
- 番号法 別表第二主務省令
- マイナンバー法 第19条第8号
- 各自治体のマイナンバー条例・施行規則
- 独自利用事務の情報連携の届出
※ 正式名称は長いのでいずれも略称にしています。また、マイナンバー法と番号法は同じものです。なお、マイナンバー法(番号法)の正式名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」といいます。
- マイナンバー法 - 内閣府ホームページ
https://www.cao.go.jp/bangouseido/law/revision.html - 関係法令(マイナンバー法関係) - 内閣府ホームページ
https://www.cao.go.jp/bangouseido/law/mynumber.html - 独自利用事務の情報連携 - 個人情報保護委員会ホームページ
https://www.ppc.go.jp/legal/dokujiriyoujimu/
どういう仕組みで情報のやり取りをするのか?
マイナンバー法に基づき、情報提供ネットワークシステムという情報連携専用の(ネットワーク)システムを使ってやり取りを行います。
基本的な考え方としては、まず、各自治体が事前に、特定個人情報(例えば、生活保護の部署が持っている生活保護の情報)を情報連携用のフォーマットに加工して上記の図でいう中間サーバーに保管しておきます。そして、情報提供ネットワークシステム経由で「このマイナンバーに紐づくこの情報をください」と提供依頼があったら、自動的にその情報を提供する、という仕組みになっています。
なお、この情報提供ネットワークシステムを使ったやり取りでは、マイナンバーを直接使うのではなく、実際にはマイナンバーから生成された「符号」というものを使ってやり取りをしています。
マイナンバーを直接使っていないので、マイナンバーが漏れたとしても悪い人がそのマイナンバーを使って情報連携することはできない仕組みになっています。
また、情報連携でやり取りする個人情報は共通のデータベースに一元管理されているわけでなく、あくまでも各自治体・機関がそれぞれ管理しています。
例えば、X県Y市に住むAさんの所得税に関する情報は国税庁、生活保護に関する情報はY市、県税に関する情報はX県、年金に関する情報は年金機構という形で分散されて補完されています。
そのため、情報が芋づる式に漏れるということは考えにくいです。
このようにマイナンバーの情報連携はセキュリティを優先して設計されています。一方で、セキュリティを優先したあまり、仕組みがかなり複雑になっており、情報連携が使いづらくなってしまっているのも事実です。
- 情報提供ネットワークシステム
- 中間サーバー
- 団体内統合宛名システム
情報連携の際に職員が注意すべきこと
注意すべき点は沢山あるのですが、僕が大事だと思う5点に絞って説明したいと思います。
(1)マイナンバーの取扱いは慎重に!
マイナンバーの情報連携をするときは必ず手元(書類やシステム)にマイナンバーがある状態だと思います。
マイナンバーは特定個人情報ですので、その情報の取扱いに十分注意する必要があります。
取扱いや保管の方法はしっかり定められているので適切に管理しましょう。
- 特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(行政機関等・地方公共団体等編) - 個人情報保護委員会ホームページ
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/my_number_guideline_gyosei-chihou.pdf(PDF) - 特定個人情報保護評価 - 個人情報保護委員会ホームページ
https://www.ppc.go.jp/legal/assessment/
もしマイナンバーが漏えいすると大問題になります。取り扱いは慎重に。
(2)業務に必要ない情報連携はしたらダメ、絶対!
担当業務とは関係ない情報連携を行うことは認められていません。
「この人っていくら稼いでいるんだろう?情報連携で課税情報を見てみよう!」
なんてのは言語道断です。というか犯罪です!
情報連携の履歴はすべて残ります。しかも、その履歴はマイナポータルというシステムを利用して住民本人も確認することができます。
つまりは、不要な情報連携を行うと確実にバレます。
- マイナポータルとは - 内閣府ホームページ
https://www.cao.go.jp/bangouseido/myna/index.html
(3)マイナンバーの取り違えに注意
情報連携で情報を取得する際に、マイナンバーの取り違えに注意する必要があります。
もし異なるマイナンバーで情報連携を行ったら、当然ですが別人の情報が連携されてしまいます。この場合、要否判定等に影響するのは当然として、不要な情報連携を行うことにもなります。
情報連携を行う際にはマイナンバーの取り違えに十分注意してください。
特に世帯単位で手続きを行う事務の場合は注意が必要です。
同一世帯であってもマイナンバーは一人一人に振られているので、情報連携もそれぞれで行うことになります。父親の情報を取得しようとして配偶者のマイナンバーで情報連携してしまったりする可能性だってあります。十分注意しましょう。
(4)地方税の情報を取得する場合には同意書が必要
情報連携で情報を取得する際、実は、地方税の情報を取得する場合だけ特殊です。
どう特殊かと言うと、地方税の情報の場合はその情報を取得する対象の方の「同意書」が必要になります。
「○○市が△△事務手続きを処理する際にマイナンバー制度の情報連携を使って地方税関係情報を取得することに同意します」という感じの同意書です。
これは、
地方税法第22条が、地方税に関する調査等に従事する者がその事務に関して知り得た秘密を漏らした場合に通常の地方公務員法の守秘義務よりも重い罰則を科している
ことに起因します。
面倒くさいですが、地方税の情報を取得する際には忘れずに同意書をもらっておきましょう。
(5)DV・虐待等の被害者に関する情報連携
DV・虐待等の被害者に係る情報を情報連携する場合、不開示措置など特別な支援措置が必要になるケースがあります。
ここでは敢えて詳しいことは書きませんが、生命に危害を及ぼすことにつながる可能性もありますので、情報連携を行うにあたっては必ず理解しておく必要があります。
マイナンバーの情報連携を行う業務の担当者宛てには、マイナンバー所管部署もしくはDVや児童虐待の担当部署から通知なりが来ていると思うので確認しておきましょう。
終わりに
僕個人としてはマイナンバー制度及び情報連携は今後の自治体業務において必須の制度だと思っています。
現状、マイナンバーの情報連携は思ったほど機能していないという状況ですが、この先課題が一つずつ解消されていけばいずれ円滑に回り出すときが来ると信じています。そのときには住民だけでなく行政にとっても非常に有用な仕組みになっていると思います。
そうなるためにも、一人でも多くの自治体職員がマイナンバーの情報連携について理解を深めることが大事だと考えます。本記事がその理解の助けになれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。